低い手摺りは緊張する。

 あるビルに行った時、窓に近寄ったら手摺りの高さが臍よりも低くて、一瞬ドキリとした事がある。
 
 人間の重心がどこにあるか正確には知らなけれど、私は臍の付近にあると思っている。だから手摺りが臍より低いと、アクシデントの際には体が内側に倒れるよりも外側に落ちてしまいそうな気がして緊張してしまう。
 そのビルの窓の高さ?低さ?が設計者の趣味とか手違いからそうなったわけではなく、パソコンが普及して社内ネットワークを作る時に、10cmとか15cmのごく低いフリーアクセスフロアーにした事で窓枠が低くなってしまったのだ。
 
 私は無線屋だからアンテナの建設や保守にたずさわっていて、地上100mを越す鉄塔作業や、45mの木柱に上っていたので高所恐怖症とは思っていないが、手摺りが臍より低いと緊張して、睾丸から血が引き腰が浮く。
 高所作業の時は、猿回しの猿よろしく安全帯にロープまで付けて作業する。墜落の危険を最小にして作業するのだが、鉄塔の低い手摺りは作業に熱中すると、手摺りが視界の下に外れてしまい、時に怖い思いをする。
 
 そういえば木柱の上で怖い思いをした事が1回だけある。今はベルト形の安全帯を使うが、昔は胴綱というロープを使っていた。まあ、作業性の点で言えば安全帯は腹を支えるので腰の切れが悪く作業性に欠ける。作業性の点では尻にかける胴綱の方が上半身が自由に動かせて良いが安全性は劣る。
 木柱作業をしていた時は胴綱の時代で、登る時は胴綱を後ろから腰に回し、肩から首の後ろに垂らして木柱を上っていく。作業を終わると胴綱を丸めて地上に放り投げるのだが、その放り投げた胴綱が木柱のステーに当たって木柱が振動した。
 かなりの振動だったので木柱に抱きついたのだが、木柱は腐敗防止のためにコールタールが木目を通して内部にも圧入してあるくらいだから、外側もコールタールでベタベタしている。
 
 おかげで、洗濯したての作業服はズボンまでコールタールで黒くベタベタになってしまった。死ぬかもしれない高所作業の時は、たとえ作業服であっても洗濯した物を着る。落ちた時にみっともない服装は見せられないと思うからだ。
 バイクに乗る時も同様である。高所作業にしてもバイクにしても、事故ればみっともない姿になるのだが、小奇麗なものを着るのは作業前やライディング前の心構えである。
 そういう意味で自動車はバイクよりはラフな気分で乗ってしまう。以前、どう見てもパジャマとしか思えない服装で運転している奴を見かけたが、たとえ接触事故でも警察官と立ち会う時に恥ずかしい思いをするだろう。それに、そこまで気の抜けた奴には事故られそうで近寄りたくない。(剣呑・けんのん)