ぶっちゃけ。私の母の老後。

  ぶっちゃけシリーズ第7弾で~す。ぶっちゃけシリーズやらなきゃよかった。結局、他人の話だけではなく、お袋の事も書く事になってしまった。本当にぶっちゃけで~す。
 
  私は転勤族でしたが、どういう人事の吹き回しか、結婚する2年ほど前に東京勤務になり、結婚した兄貴とお袋が住む実家に居候する事になりました。
  お袋が『居候するんだから兄貴に2万円くらい払いなさい』という事でお袋に2万円あずける事になりました。手取りが4万円弱の頃でしたから苦しかったのですが、食事を兄嫁が作ってくれるので、2万円は仕方がない額だと思いました。
  私は2万円払っているからと、遠慮なく兄嫁の作ってくれた食事を食べました。ところが、実は2万円はお袋が全額ノンでいて、兄嫁の手には渡っていなかったのです。そして、そんなお袋のノミ行為で私は兄嫁から嫌われ、現在も不仲です。
 
  墓を建てた時にも、最初は『次男は分家だから墓の費用を出す必要はない』と言ったお袋ですが、後日『お前も50万円分担しろ』と言ってきました。しかし、お袋の死後に兄貴に確認したら、兄貴は私が墓の費用を出した事を知らなかったのです。これもお袋がノンでしまったのです。
  親父が早く死んだので、お袋はやりくりもつかぬ様な貧乏生活の中で私達兄弟を育ててくれました。ですから、お袋がノンだ事を責める気持ちはありませんが、兄貴や私に内緒でノンだ事で兄弟仲が悪くなってしまったのが残念でなりません。
 
  私が転勤族であったから、お袋は転居先に観光気分でよく遊びにきました。そして『年寄りは孤独だよ~』といつも嘆いていました。兄貴に相談したい事があっても休日には車で一家が出かけてしまい、平日と同じ様に長時間一人ぼっちにさせられるので、自分は家族の一人に考えられていない気分だった様です。
  ところが、私の所ではのんきに過ごしているのに兄貴達に電話をかけると、特に兄嫁が出た時には『こっちでは、まだご飯にならないんだよ~』などと兄嫁に媚を売る。
  そんなお袋の言葉に、私達が聞こえる距離にいるのにそんな言い方はないだろうと思いました。帰った時には『やっぱり、家が一番いい』などと、また媚を売るのだろうと邪推すらしました。
 
  お袋が亡くなる数年前に、兄貴達が家族旅行に行ってさみしいから遊びに来ないかと誘いを受けました。この時は、数日前から雨模様だったし、兄貴夫婦と仲が悪いので気は進みませんでしたが、若い我々が雨だから行かないと実家へ帰るのを躊躇すのもおかしいので実家に行きました。
  すると、二階の手摺りに敷布団が雨に打たれていました。こちらからいきさつを聞く前に、お袋が『布団を干して外出したら、途中から雨になっちゃって、部屋に取り込むわけにもいかないからそのまんまにしてある』と言いました。
  私は内心(夜中に兄貴たちを起こしてはいけないからトイレに行くのを我慢して失禁した?)と思いましたが、それを聞いたらお袋の面子をつぶす事になるので聞きはしませんでした。それにしても、雨天に布団を出しておくのはご近所に見られたら恥ずかしい光景でした。
 
  そんなお袋の死因は癌でした。最初は食道癌でした。食道を切り取り胃袋を引っ張り上げて喉と胃袋を直結するという手術を受けました。医者の話では見えるすべての癌を取りましたとの事で、一時お袋の様子は回復した様に見えました。
  ところが1年ほどして、また具合が悪くなりました。今度は肝臓に癌が見つかったのです。手術をするには体力が回復していないので薬物治療になりましたが、治るわけもなく悪くなる一方でした。そして、最後は痛み止めのモルヒネで死にました。
 
  食道癌が見つかる前の事ですが、兄嫁との仲が悪かったお袋は精神的な軋轢による体調不良と思って、私の住んでいる群馬に転地療養したいと考えて親戚に相談しました。すると、その親戚は「今の家から出たら、もう帰ってこれないよ」と言ったのです。
  そのアドバイスに震え上がったお袋は私の所に来る事をあきらめました。この話はお袋の通夜にその親戚が(私はいいアドバイスをした)とばかりに自分から披露したのです。
  その時、私は絶句しました。そのおかしなアドバイスをした親戚よりも、お袋がなぜ我が子に相談しなかったのかという思いでした。
  そして何年もかかって推測による理解をしました。お袋は貧乏という不安な生活から親戚に借りまくったり、不安解消のために子供達をだます様な形でお金を入手しました。そして、いつの間にか一番大切な親子の縁まで信じる事ができなくなってしまったのでしょう。
  あるいは、最後の頼みの綱の息子達と相談して、その望みが絶たれたらどうしようもなくなるという不安から、切れてもかまわない親戚などに相談したのかもしれませんし、単に自分に都合の悪い答えの返ってくるのを聞きたくなかったのかもしれません。
 
  年寄りは衰えを知ると不安が増すものです。元は自分の家であっても息子の世話になる様になると媚びたり、現役世代に遠慮して夜中のトイレを我慢したりしてしまうのです。
  それだけでなく、うちのお袋の様に自宅で世代交代した場合は、どこに何があるか判っているからまだよいのですが、親を自宅に呼び寄せた場合には普段使いの様々な物が無く、ポットから急須、湯飲み茶碗に至るまで違うし、玄関の位置もトイレの位置も違うので家の中で迷ってしまいそうな不安も出てきます。
  それなら、ワンルームでもいいから起きてから寝るまで、たとえ食事を運んでもらってでも、食事から排泄まで自分スタイルで生きられる空間の方が気がねしないので心が休まるのではないでしょうか。
 
  親だって、面倒を見てもらう様になると気がねをする様になります。でも、困り事や希望があったら親子で話し合える関係を作る事が大切だと、私は思います。
  まあ、私の兄は教師でしたから、お袋にまで模範解答を語って、困り事を親身になって解決するというタイプの人間ではありません。それがよりお袋を孤独で一人よがりにしてしまったのかもしれません。