『拾った切符 (Woman's side 2)』

 鈍い男は酒にも鈍いのか以外と酒に強く、酔うどころか目に欲情の兆しが見え、私の体を舐めまわすように見つめる。酔って暴力でも振るわれては大損だし、警察を呼ぶわけにもいかないので私も覚悟を決めて次の間に入った。男が隣室で立ち上がりワイシャツとズボンを脱ごうとしているで私も覚悟を決めて布団を目深に引き上げた。
 男が脇に入り、頭の下に手を入れてきた。余計な事はしなくていいから早く出して終わりにしてよ。
 あら、鈍いわりには上手かも。流れるように体をさすられるうちに、私は横を向かされてしまい、私の下腹には浴衣の上からでも男の物がいきり立っているのが感じられた。浴衣の上から肩をさすられ、静かに帯を解かれた後に首筋から肩先に手を入れられて浴衣を外されるときには下腹に男の脈打つ物が押し付けられ、浴衣を脱がされる猥褻感に少し感じてしまった。
 感じていてはいけない。男を先に行かせなくてはと、体を沈めながら男の物を握って口を近づけると、男の手が顎の下をやさしく押さえて「セックスは男と女のフィフティーフィフティーのボディートークです。私のをなめるのは止めてください。」と制止した。あれ、以外とフェミニストなのね。男の手がそのまま私の顔を上げ、キスをしそうな雰囲気だったので「それではキスも止めてください。」と、私も条件を出した。
 どちらかと言うと小柄な私の体を男は好き勝手に扱う。今度は私を後ろ向きにさせて下腹を探り、硬くなった物をお尻に押し当ててきた。まだパンティは着けているが一瞬アヌスが危ないと思った。男は私の太ももの間に硬くなった物を挟ませた。手でまさぐると私の陰毛の下、まるで藻の間から亀が首を出したようになっている。昔の恋人が亀頭と教えてくれたが、まったくその通り。でも、この亀は触っても首をすくめないし、つまむと不思議な弾力を持っていて、まさぐり続けたい触感になっている。
 亀頭の感触を楽しんでいると、いきなり体が回転し私は太ももの間に肉の杭を打たれたまま男の上に仰向けに乗せられた。その弾みで掛け布団がずれ、胸が丸見えになったので慌てて両方の手で胸をかばった。
 私の股間にはさらに亀頭が突き出てきた。男が肩から乳房に手を滑らせてきたので、股間で脈打つ亀頭に手を移し、思わず「私のみたい。」とつぶやいてしまった。
 これが私の尻の下にある男の体から伸びているとなるとかなりの長さじゃないの。これで、あの、あっ。自分の猥褻な想像と男の首筋への愛撫に思わず声を出しそうになった。ここで私がよがっていたんじゃ駄目なのよ。男の方だって、亀頭の先端によだれのような愛液が出始めたんだからもっとその気にさせなくちゃ。もっと亀ちゃんをかわいがってあげなくちゃ。男がまた体の向きを変えてきたが、この亀ちゃんは逃がさないわよ。ずっと愛撫し続けてあげる。先に行ってもかまわないわよ。そんな事を思って触っているうちにいつのまにかパンティを外され、亀も手から逃げてしまい、男が私の濡れ具合を調べるために割れ目に指を入れてきた。

 男が覆い被さり、あの亀を挿入してくる。以外と濡れていたのかぬるりと入ってきた。ゆっくりと挿入を繰り返し、徐々に深くなってくる。やはりかなりの長さだと思ったとき、男がコンドームを付けようとして体を離したので「私、ピルを使っているから中で出しても大丈夫よ」と言うと。「二回したいので一回目はコンドームを使わせて。二回目の時に流れて布団を汚すといけないから。」なに。思わず正気に戻るが、これもオシゴト。やると言われればやらせるしかないかとあきらめた。
 コンドームを付けると感覚が鈍って長持ちすると前の彼氏が言っていたけど生の時よりピストンスピードも深さもさっきより激しくなった。こら、遠慮会釈なく一番奥まで来るな。アウ、アウ、アウ。一番奥で出したな。膣壁への衝撃は痛みと快感を伴って、背骨を掛け上がり頭の芯まで届いた。精液を出し尽くそうとする陰茎の痙攣は膣口から子宮を振動させ腰全体が男と呼応して振るえた。
 男がコンドームを外してまた入ってきた。私はさっきの快感で充分と思うのだが、男の陰茎の痙攣と呼応して振るえた腰は私の意思を無視して男を受け入れた。私の娘が男の息子と逢引をしている。私の意思に関係無く腰が動き頭が真っ白になるほどの快感が押し寄せた。股間は火を噴き、これ以上男を受け入れられない。中で何かが当たり、外で何かが触れると快感が湧き起こり、耐えきれぬ快感は全身をしびれさせた。体はそれ以上の快感を受け入れられなくなり、愛撫はしびれた足に触られたように感じ、それ以上の刺激を拒否した。

 なにかを叫び、布団の端に倒れ込むように突っ伏し、快感の痺れが抜けるのを待った。
 気がつくと男はいない。襖を細めに開けると座椅子にもたれて眠っているのが見えた。立ち上がってパンティをはこうとしたがよろめくので座って下着を着け、やっと立ち上がり上着に手を通したが何かけだるい、座りたいのを我慢して襖を目いっぱい開けると男が目を覚ました。
 私は足を踏みしめるようにして「帰りはあなたとは別の電車です。別々に帰らせていただきます。」と、ビジネスライクにつげた。男が何か言ったが無視して「宿の方は済んでいます。出るのはしばらく後にして下さい。」と背を向けて部屋を出た。玄関で女将に軽く会釈すると、女将もすべて心得ていますよと目線で答えてくれた。情事の後の少しけだるく足に力の入らない私に、遠くから目線で答えてくれた女将に感謝した。近くでは今日のセックスまで悟られてしまいそうなほど足が浮いていた。
 いつもは気にもならない駅までの細い下り坂が、今日は膝が崩れてしまいそうな気がした。体の芯に残った快楽の残り火と、行かされてしまった悔しさに「膝カックンなんてみっともないからね」と独り言をつぶやきながら下った。

 今月は今日のお仕事の臨時収入が入るので少し楽になるけど、入れば入ったでバリ島へも行ってみたいとか、そろそろ新しい服も靴もバッグも欲しいし、何日豊かでいられるかわからないから少しでも経済しよう。新幹線の切符を払い戻せば少し浮くもんね。
 熱海から在来線で小田原に出て小田急線で帰ろうと熱海駅で新幹線を払い戻した。小田急線は追加料金のかからない急行を利用するつもりだったが、体がだるいような気がするのでロマンスカーをおごろう。それならと、小田原で男の話していた鯵寿司とウィスキーのポケット瓶を買い、ロマンスカーではコーラを頼んだ。ウィスキーをコーラにたらして飲み、鯵寿司を食べた。傍から見ればオジンギャル真っ盛りだ。
 ウィスキーが回ると快感の残り火がかきたてられた。今まであれだけの快感を感じた事はあったろうか。前の彼もやさしくリードしてくれてふわふわと気持ちのいいセックスをしてくれたけど、それは空を舞っているような気分。今日のは体が急上昇して天井にぶつかり、体の中の何かに触れるたびに、あるいは性感帯に手が触れるだけで体がまた天井にぶつかるような苦痛にも近い快楽は始めてのはず。2杯目のコーラでポケット瓶は空になり酒の酔いとも快感の再燃ともわからぬ火照りがまた体に戻ってきた。目をつむり、シートに体を擦りつけ余韻に酔う自分が少し恥ずかしかった。

 新宿からはいつもの通勤経路、何も考えずにマンションまで帰ってきたが何か物足りなく冷蔵庫を開けた。缶ビールが1本しかないのでビールの後はウィスキーの水割りでありあわせの野菜とハムとパンで軽く夕食を済ませた。ありあわせでもお腹は満たされたはずだが、心の何かが満たされていないような気分は酔いにまぎれさせた。翌朝目覚めたときは日が高く上っていて慌てさせられた。時計はベットの棚から落ち、電池が外れて止まっていた。『遅刻!』が一瞬頭をかすめたが、今日は休みだったよねと気を取り直してテレビをつけるとメレンゲの気持ちをやっていた。大きく伸びをすると腰骨がゴキンと音を立てたので手でトントンと叩きながら冷蔵庫を足で開けてヨーグルトを取り出した。冷蔵庫の脇の鏡に映る顔はいつもより良い顔をしていたが目が赤くなっている。ゆうべ泣いたに違いないが、夢の記憶は無かった。
 時々こういう事があるんだよね、どんなに気持ちのいいセックスをした後でも、そうでなくても、朝起きたときに誰か隣にいて欲しい。朝まで肩を抱いてくれる人が欲しい。そう思う時が。