私を変えた1冊の本。

 24~5歳の頃に『日本人とユダヤ人イザヤ・ベンダサン著)』という本が評判になった。さほど厚くないし、面白かったので寝ずに1晩で読み終えてしまった。
 ただし、直感の鋭い女性には屁理屈を捏ねているようで不評なのと、宗教などに凝り固まってしまい多様性を認めない人には理解できない本である。
 
 『日本人とユダヤ人』は日本人の常識的な考えを打ち壊す威力のある本だっただけに評判にもなり騒ぎも起きた。
 一番騒いだのは本多勝一で、彼はイザヤ・ベンダサンの仲介者の山本七平に公開質問状という形で何回も疑問を投げかけた。そして、山本七平イザヤ・ベンダサンと結論付けた。
 まあ、私にとっては著者が誰であってもかまわなかった。とにかく、どこを読んでも常識の吹き飛ぶ快感に笑ってしまう本であった。
 
 今、本が行方不明なので細かな表現は忘れたけど、一番影響を受けたのは『全員一致は無効』という考え方である。
 物事には良い面と悪い面が存在する。人もそれぞれ考え方が違う。全員一致という状況は物事を検討していない結果なのだから無効にすべきという理屈である。無条件の全員一致は、全員が悪い面を考えていないから実行しても支障が出るもので、それは個人にも当てはまる。
 私はそこを読んで手をたたいて笑ってしまった。人間はえてして自分に都合の良い事ばかりを考える。お金が欲しいから賭け事で増やそうなどと考えるのがその典型で、自分に都合の良い『当たる事』だけが頭を駆け巡る。しかし、それはほぼ100%外れる。
 個人の場合は個人の心の問題で、言ってみれば反対勢力はいない。自分が納得すれば突っ走ってしまうのだ。
 
 まあ、それほどではないにしても分割払いなどもそれに近いだろう。昔、私の友人が36ヶ月払いでチョットお高い車を買った。度々その車で旅行したが、1年目くらいに遠方で自走できなくなるほどの事故を起こしてしまった。
 そして、ポンコツとなった愛車を始末してくれた業者に売り払って帰ってきた。そうしたら、購入したディーラーともめてしまった。すなわち、分割払いの払い込み分はオーナーの物ではあるが、未払いの権利はディーラーにあるから、勝手に売り払った事にクレームをつけられたのだ。
 
 とかく人間というものは自分の都合で突っ走ってしまうが、それにより迷惑をこうむる人は困ってしまう。勝手に突っ走られたら百年来の親友だって敵になる。
 卑近な例では、自分の好きな人を親友に取られてしまうというのがそれだろう。恋人を取られた瞬間に、親友は恋敵になってしまう。
 
(余談)
 バブルの頃に、テレビで個人事業に投資する番組があった。商売プランをプレゼンして資金を出してもらうという番組だった。綿密なプランで投資してもらえる人もいたし、粗雑なプランで投資してもらえない人もいた。
 その中に『競馬で儲ける』という青年がいた。色々質問され、最後に現在の資金回収率を聞かれ『約80%』と答えた途端。投資者から「100%を超えていないなら私達は君に遊ぶ金を渡す事になる」と諭されてしまった。
 若い時にはありがちな、自分に都合の良い考えこそ正しいと突っ走ってしまう典型だった。ただ、私にはこの青年を笑えない。私の子供も同じ様な事を言ってオートバイやパソコンを欲しがった。そして私は、何度か騙されてやった馬鹿な親である。