汚いものは悪だ。

 ホームレスは怠け者だし、薄汚くて街が汚れる。だから、殺しても悪くない。むしろ街を清潔に保つためには殺すのが正義だ。クラスの○○は頭が悪いし弱虫だ。いじめてクラスから追い出そう。転校だっていいし、自殺したってかまわない。ゴミは消えて当然だ。年寄りは臭くて不潔だ。何もしないで食うだけならホームレスと同じだ。殺した方が社会のためになる。なにより、弱い者をいじめるのは楽しい。だって、自分は安全なのだから。
 独断と偏見と未熟と愚かさゆえの結論で若者は遊び感覚で人を殺す事がある。社会学者によると、昭和40年代に下水が普及し、糞尿が視界から消え去り、同時期に病人が病院で死ぬ様になると、若者に『汚いものは悪』という考え方が広まり、年長者への敬意と弱者へのいたわりが薄れたという。
 昔も弱虫や乞食はいたが、ガキ大将は弱虫や年下を『みそっかす』して仲間に加えていた。乞食も店先や玄関先から追い払うために金を与えたが、いじめる事はなかった。まして、子供が乞食を襲う事などもなかったと思う。時に、酔っ払った若者がからんでいる事はあったが、ボコボコにする事はなかった気がする。
 『衣食足りて礼節を知る』を信じていた俺が馬鹿なのか。それとも、現代はまだ何かに飢えているのだろうか。そんなに欲ってあるものだろうか。俺の欲などオートバイと車と軽飛行機と150坪くらいの土地。ささやかなもんだ。