オレオレ詐欺と老人守銭奴説。

  困った事に、今年もオレオレ詐欺の被害額が前年を上回りそうな勢いである。また、この手の詐欺ほど老人と若者の意識のズレが大きな犯罪はない気がする。
 
  昔から詐欺ほど被害者が馬鹿にされ、みんなから同情される事のない犯罪も珍しい。いわく『欲張ったからうまい話に乗って騙されたんだ』とか『話のおかしいのに気づかなかったのはバカだったのさ』とか、被害者は踏んだり蹴ったりの憂き目に遭ってしまうものだった。
  ところがオレオレ詐欺には、老人と若者に大きな認識の差がある。老人は同情的でも、若者に言わせれば『年寄りは守銭奴』とか『年寄り(守銭奴)から金を騙し取るのに罪悪感は無い』と、普通の若者からオレオレ詐欺師までがそう言ってはばからない。
  だがしかし、本当に老人は守銭奴なのだろうか。守銭奴オレオレ詐欺の様に見返りのない詐欺に金を出すだろうか。守銭奴は儲け話に金は出しても、見返りのない事に金は出さないものである。
 
  それでは、なぜ年寄りは小金を持っているのだろうか。将来の不安に備えて持っているという人もいるだろう。また、子供たちなど現役世代に負担をかけたくないと思っている人もいるだろう。あるいは、小金を持っていれば子供たちも粗末には扱わないだろうと思っている人もいるかもしれない。
  韓国のテレビドラマ『チュノ』では、死人の口に金を押し込むシーンがよく出てくる。『人間、死んだら金なんて必要ない』などとうそぶく奴もいるが、実際は死んでも金は必要なのである。老人の小金にはそんな意味もあるのだ。
  だから、そんな思い入れのある蓄えをオレオレ詐欺で盗られてしまうのは、自分よりも血縁の不幸を救いたいとの思いが強いのであり、それは守銭奴の行いではない。
 
  『保険の還付金があります』などの欲にからむ詐欺に引っかかったならなんと言われてもかまわないが、身内を助けたいと思って詐欺に引っかかった老人には『年寄りは守銭奴』などと言わないでほしい。