通信線の埋め殺し。

  送信機は電源を供給しなければ動かない。電源を供給すれば電波は出るが、通信線をつながなければ情報は送信できない。さらに、送信機の状態がどうであるかの情報を伝えるコントロールケーブルも必要である。
  すなわち、通信機器には電力線からはじまり、無数のケーブルが接続されるのが普通である。また、通信所内の機器の配置は人間が待機する場所に近い所から通信機器を設置していく。
  通信所は徐々に設備が増えていくから、先に設置した機器のケーブル類の上に新しい機器のケーブル類が載せられていく事になる。
 
  ところが、機械というものは時間がたてば部品劣化などで性能が低下するので、20~30年で新しい機器に交換される。
  そこで問題になるのが古いケーブル類の撤去である。徐々に増設されたケーブル類が古いケーブルの上に積み重なり、力ずくで古いケーブルを引き抜くのは無理である。何かをケーブル類の下に押し込んで持ち上げれば引き抜きも可能だが、その作業の途中で他のケーブルが切れる恐れもある。
  結局はケーブルの接続を外して端末処理をしてそのままに放置する事となる。俗に、これを埋め殺しと呼んでいる。
 
  私が就職した頃に、ST管と呼ばれた古臭い真空管の無線機を撤去した事がある。電源ケーブルはゴム被覆で絶縁されていたが、ゴムが劣化していてポロポロと欠ける状態だった。それが、わずか20年ほどの間におきた劣化であった。
  さて、太陽系を飛び出すロケットであったら、ロケットのすべての材質は百年以上は劣化しない物でなければならない。
  もうひとつ気になるのは接触不良である。人間は酸素を呼吸して生きている。しかし、酸素は金属を酸化させ接触不良を起こさせる。接触により電気を通じている部分に酸化が起これば電気信号は遮断されてしまう。
 
  私の無線屋としての経験にケーブルが焼けるという事故に遭遇した事がある。大事には至らずに消火できたのだが、ケーブルのビニール被覆が焼けて異臭と煙がかなり出た。
  その火事の後から原因不明の接触不良による故障が続発し、銅には緑青が発生した。私はビニール被覆が焼けた際に発生した黒煙かガスによる悪影響だと、今でも思っている。
(生産工場を持たぬロケット内でこんな事が起これば宇宙を漂流する事になるだろう)