昔、プラスチックの芸術と言われた商品。

 LPレコードやオープンリールのデッキを持っている人はほとんどいないでしょう。それでも家の中を探せば、もう聴かなくなったカセットテープを死蔵している人はかなりいると思います。
 
 世界中に広まったカセットテープはオープンリールの煩わしさを解消するために開発された商品です。ほぼ同時期にフィリップスとRCAが似たような物を作りました。(世界に広まったカセットテープはフィリップス方式です)
 フィリップスはテープの巾がオープンリールの半分しかありません。RCAはオープンリールと同じ巾のテープでした。(RCAの実物を見た事はありません)
 音響的にはRCAに軍配が上がりますがRCAは特許料を要求し、フィリップスは特許を開放したので世界中に広まりました。音響的には不利なフィリップス方式でしたが、その後の技術進歩により弱点は改善されました。
 
 ところで、カセットテープの何が芸術と呼ばれたのでしょうか。それは、プラスチックで出来たカセットの事です。死蔵していて不必要なカセットテープがあったらネジを外してバラバラにしてみてください。
 外側のケースからテープを巻いたリールまで、パーツのほとんどがプラスチック製です。プラスチックを成型するには金型が必要です。当時、あれだけ正確なプラスチック製品を作るのは大変だったのです。しかも、ケースの中でリールが回転し、引っかかる事もなくスムーズにテープが流れるのです。
 
 私の様な素人の関心は再生される音でしたが、金型職人やプラスチック製品を扱う人達には厚さ1mmに満たないプラスチックで歪の無いカセットを作るのに、どれほど高度な技術が必要なのか判ります。
 鋼の塊をルーターなどで削って高精度の金型を造るのは大変な技術と努力が必要です。なおかつ、高温高圧でプラスチックを注入し、常温になっても歪みのない小型プラスチック製品を作るのは、あの時代にあっては大変な事だったのです。
 専門家は思わず『これはプラスチックの芸術だ』と叫んでしまったのでしょう。判る者には判り、判らない者は生涯理解できないと思います。