研究者の気高き意志。

 鈴木、根岸両博士のノーベル賞の賞金は、ダイナマイトで大儲けしたノーベル博士の財産の利子が与えられるから、金利の良し悪しで金額が変わり、さらに、為替レートの変化で受け取る金額が変わる。現在は円高なので、日本円にすると受取額は2千万円を切ってしまうだろう。
 もし、鈴木、根岸両博士がクロスカップリングの特許を取っていたとしたら、両博士は大儲けをしていたはずである。ところが、両博士ともクロスッカプリングの技術が広く応用され社会に利益をもたらす様にと、最初から特許を取る事は考えなかったという。大変に素晴らしく、世俗を超越したいさぎよい学術的態度だと思う。
 特許を取っても無償公開という手段もあったはずだが、それは学術的というよりも経営的やり方である。
 もう40年以上前になると思うが、オープンテープレコーダーの使い難さを解消するためにカセット式のテープレコーダーが研究された。世界標準となったのはテープ幅3mmのフィリップス方式だが、実は、同時期にRCAがオープンタイプのテープ幅6mmのカセットを作っていた。
 どちらが世界に普及するのか。小型なフィリップス方式か、音質のRCA方式のどちらだろうかと世界中が注目した。すると、フィリップスは特許を無償公開する手段に出た。結果はRCA方式が駆逐され、カセットテープはフィリップス方式に統一された。
 形は似ているが、特許を無償公開するのと、特許を取得しないというのには雲泥の差がある。