パズルの様なエミの手がかり。

 残業の仕事中に親父から電話があった。エミの貯金を下ろしたデーターをエクセルで作ったから携帯メールでなくパソコンの方に送ったとの連絡だった。
 残業中だったが、エミの事が心配で直ぐに開いてみた。帰国直後に親父が話した通り1年半ほどのエミの引き出した窓口は、ほとんどがウィーンで金額も1000ユーロを越してはいなかった。1000ユーロの引き出しは最初のクリスマスの少し前で、翌年のクリスマス前には500ユーロと少なかった。
 多分、最初のクリスマスは友達に誘われたけど、どれくらい必要か判らずに少々多めに引き出したのだろう。次の引き出しが2月下旬だから、クリスマスでのお金はそんなにかからなかっと推測できる。
 ところが、2年目のクリスマスの後は1月にも引き出していて、金額も1000ユーロを超えていた。窓口はウィーンだが、1ヶ月もしないうちに約2000ユーロは金額が多すぎる。2年目のクリスマスに何かあったのだろう。多分、恋でもしたのかもしれない。
 それからは毎月1000ユーロを越える金を引き出し、7月には5000ユーロも引き出していた。
 
 わからない。2年目のクリスマスまでは1~2ヶ月に1回の引き下ろしだったのに。わからない、わからない。引き下ろし窓口と金額だけでは何も判らない。
 推測はできるが、それはあまりにも大雑把すぎる。多分、生活に慣れた2年目のクリスマスで誰かに恋をして、デートするためにお金が必要だったんだろう。だがわからない。何で7月に5000ユーロもの金を下ろしたんだ。8月に日本へ子供を堕しに来るためのお金だったのかもしれない。それなら辻つまは合う。
 だけど、エミはお袋に相談していたみたいだし、お袋が近所に知られない様に内緒で産院を探し、お金もお袋が出したかもしれない。それを確かめたいが、誰がお袋に聞くんだ。親父か?それとも俺か?。俺が聞いても親父が聞いてもひと波乱起きそうだし、お袋の精神状態も判らないのでお袋に聞くのはまだ早いかもしれない。
 どうすべきなんだ。東京へ行って3人で話し合うか?。それは下手をすると親父と俺でお袋を吊るし上げる事になるかもしれない。どうしたらいいんだ。エミの事が心配で、ちょっと目を通すだけのつもりが、仕事も手に付かないほど悩む事になってしまった。
 翌日は残業で仕上げるつもりだった仕事も残り、その上、考えあぐねた寝不足の顔で出社した。午前中の仕事もはかどらないでいると、藤原先輩に肩を叩かれてしまった。だが、その拍子にひらめいた。エミは親父の家族カードを持っていたはずだ。クレジットカードの支払い明細を見ればもう少し判るかもしれない。コーヒーを飲む振りをして席を立ち、急いで親父に電話した。
 
「もしもし、親父。」
『お前。あれで何か判ったか?。』
「いや、判らない。」
『あれじゃあ雲を掴むようなものだ。』
「父さん。クレジットの明細からもう少し詳しくエミの事が判るかもしれない。」
『アッ。そっちがあったな。』
「使っていればクレジットの方が詳しく判るはずだよ。」
『実は、途中でネット明細に切り替えてから明細内容は見ていないんだ。』
「父さん。何時ごろに切り替えたの?。」
『ウ~ン。1年くらい前だったかな。詳しい時期は覚えていない。』
「エミがおかしくなったのは2回目のクリスマスからだから、そこまでは知りたい。」
『とにかくいい案だ。すぐに調べてみよう。ネット明細ならさかのぼれるだろう。』
「昨夜は、解けないパズルをやってるみたいで寝不足になっちゃった。」
『仕事でヘマはするなよ。寝不足は理由にならんぞ。』
「うん、気をつける。じゃあね。」
 
 親父に一気に喋りまくってホッとしたものの、ちょっと気が抜けてしまった。眠気払いと気合を入れるために熱々で濃いめのコーヒーを飲み仕事にかかった。先輩の注意と濃いコーヒーのおかげか、あるいは事態が1歩前進したためか、ようやく眠気は飛び去り、仕事の能率も普段通りに戻った。