お婆ちゃんはなぜ死んだんだろう?。

 俺がまだ赤ん坊の時にお婆ちゃんは死んだと聞いていたが、何で死んだのかは今も知らない。お爺ちゃんがマンションに同居していたら聞いていたかもしれないが、お爺ちゃんがアパートに引っ越してしまうと、俺には妹という強力なライバルが育ってきていた。それ以来、親父にもお袋にもお婆ちゃんの死んだ理由を聞く暇は無くなった。
 お婆ちゃんの死んだ理由が知りたくて1冊目の日記を読んでみたが、お婆ちゃんの死について詳しい事は書かれていなかった。だが、親父がお爺ちゃんに金の無心をしていた事と、お爺ちゃんが親父のしつこさに押し切られた日記が見つかった。
 
1月15日
 正月気分も抜けないのに憲一が金の事を言ってきた。ワシも3月には退職するから、その退職金が入るまで待ってくれと言ったが、金利がどうのこうのとか、2千万円でなくてもいいから、1千万円は直ぐにでも何とかして欲しいとしつこかった。
 どうあっても富子の退職金には手をつけたくないので、富子への見舞金と貯金を下ろして1千万円を捻出した。
 しかし、憲一は恥知らずな奴だ。腹立たしい事に、金を持ってきてくれと言いおった。頭を下げて取りに来い。馬鹿息子め。
 
1月23日
 昨日、憲一の所に1千万円持って行ったが、憲一が帰ってきたのは、ワシが寝た後で深夜を回っていたらしい。ワシが朝食を済ませた頃に起きてきて、忙しいだのナンタラカンタラと言い訳をしながらコーヒーを飲んだ。
 飲み終わるといきなり金の話になり、腹立たしい気分で鞄から1千万円を出して渡すと、やっと感謝の言葉が出た。たとえ寝起きであってもその言葉を一番先に聞きたかった。憲一にはただの1千万円かもしれないが、ワシにすれば富子の体を切り刻む様な思いの金だ。
 バカ息子に腹が立って、昼前には憲一のマンションを出て帰ってきた。富子の死の代償を無造作に扱われた事を思い出すと今も涙がにじむ。
 
 お爺ちゃんは物凄くお婆ちゃんを愛していたんだ。死んだ後もお婆ちゃんのお金に手を付け様としなかった気持ちに、俺も胸がググッとなってしまった。日記には生徒を守ろうとしてお婆ちゃんは死んだとしか書いてない。きっと、理不尽な死に方をしたんだ。だから、お爺ちゃんはお婆ちゃんのお金に手を付ける事が出来なかったんだ。お婆ちゃんのお金を使うのは、お婆ちゃんの聖域を汚す様な気持ちだったのかもしれない。
 どうしてもお婆ちゃんの死んだ理由が知りたい。東京に行ってお爺ちゃんから直接聞くしかない。今週末は東京に行こうと決めた。そのためには、しんどいけれど先々週の土曜日の様にがんばって働くしかないか。