地震の時、枕を抱いて逃げた祖母。

  昔、お袋から関東大震災の時に祖母は枕を抱いて逃げたという話を聞いて、私はその時(人間あわてると分別が無くなるんだ)と思い込んでしまった。
  だがしかし、この歳になってやっと祖母の真意が判った気がした。祖母の枕は、たぶん命の次に大切な物だったのだ。
 
  今、私はソバガラ枕を使っているが、祖母は寝込むまで小豆枕を使っていた。子供の頃に祖母の枕に頭をつけてみた事はあったが、ソバガラ枕と違いブツブツと頭皮に小豆を感じる寝心地の悪そうな枕だった。
  それと、夏休みに祖母の家に遊びに行くと、夏でもあんこと冷やした白玉や、新粉で作ったあん団子を食べた。その意味もやっと判った。
  枕は毎日使う物なので、いくら枕の上に手拭いをたたんで乗せていても、枕の小豆には匂いが移るはずである。だから、祖母は頻繁に枕の小豆を取り替えては食べていたのだろう。そう考えると、関東大震災の時に枕を抱いて逃げた祖母は非常食を抱えて逃げたという事になる。
 
  数日前に小豆を500g煮て、砂糖100gであまり甘くないあんこを仕上げた。小豆は大豆などと違い、前日から水に浸して水を吸わせる必要もなく、重曹でアク抜きしなくても、煮はじめて半分くらいの豆が浮き上がった頃に最初の水を全部すてて、水を入れかえて煮上げればよく、手間のかからない豆である。
  きっと、祖母は親から非常食として小豆枕を教えられていたのだろう。だから、関東大震災の時に枕を抱いて逃げたのだと、私は思う。
 
  しかしなぁ~。私があんこと餅好きなのは祖母の小豆枕のおかげ(せい?)なのかなぁ~。私のソウルミュージックが、祖母が必ず聞いていたNHKラジオの『昼のいこい』である事はずいぶん前に気づいていたが、ソウルフードが祖母の小豆枕につながっていたのは、今回あんこを煮て気づいた。
  毎日が日曜日になってからは自分の人生をさかのぼり、様々な事を思い出していたのは久しいのに、今ごろ祖母の関東大震災の枕の話を思い出すなんて。笑ってしまう。