よく見守れば家族の事は判るはず。

  ゆっくりと静かに進行するボケは本人も周囲も気づかない事が多いものである。しかし、家族内の見守りがしっかりしていれば、本当は気づくはずである。
  以前にも書いたご近所のご隠居さんは人当たりもよいので、言葉をかわすだけではボケには見えなかった。
  でも、ご家族からは『父に伝言されても家族には伝わりませんから、重要な事は私達に話してください』と言われた。流暢に言葉はかわせても、話の中身を家族に話す事を忘れたり、話した相手が誰だったのかも判らなかったそうだ。
 
  私の父が倒れた時には、体力が回復したらほとんど障害も残らず、好きだった書道も以前と変わらぬ文字を書いた。ところが徐々にボケが進行すると毎朝の習慣だった懐中時計を巻き過ぎてゼンマイを切ってしまった。
  それでもゼンマイを巻いけば時計もしばらくは動くので、本人は安心する。しかし、程なくそれも止まるので、またゼンマイを巻いて時刻を合わせ、1日に何回もゼンマイを巻くのを不思議に感じていなかった。
  そのうち、愛用の懐中時計を気にしなくなった頃から徘徊が始まり、すでに死んでしまった友人に会いに行くと言って外に出ようとしたり、貸した金を返してもらうなどと大昔の記憶を今の事のように言う様になった。
 
  私の母は、長兄が内緒にしていた恋人の顔と名前を日常生活の中で知ってしまった。長兄が団体で行ったハイキングの写真を見せてもらい『この人、ご近所の○○さんに似ている』とか『この人は俳優の誰それみたい』とか感想を言いながら名前を聞くうちに、長兄の本命はこの子で名前は○○と判ってしまった。
  そんな母が長兄の嫁に嫌われるキッカケとなったのが、第一子妊娠の時である。食事の時に、兄嫁が体の不調をうったえた。すかさず母が『産婦人科に行ってきたら、妊娠じゃあないの』と言ったのである。
  そして兄嫁は妊娠していた。兄嫁の機嫌と生理用品のゴミで生理の周期が判り、生理の途絶えで妊娠が判る。女性の先輩として当然の事ではあるが、兄嫁は性生活まで見透かされた様な嫌悪感をいだいてしまった。これが嫁姑関係の最初の亀裂であった。
 
  そんなこんなを考えてみると、自分の娘の妊娠に気づかず、たった1人で赤ん坊をトイレで産み落とし、殺してしまったり、捨て子をするのが私には理解できない。生まれてすぐに殺される赤ん坊も気の毒ではあるが、親に相談できる雰囲気もなく、気づいてももらえなかった娘さんは本当に気の毒である。
  最近の事件で、65歳の男性が28歳の養女を妊娠させ、生まれた子供を殺したというのは一体なんだったのだろうか。まあ、若い妾を養女というごまかしはずっと以前からあったが、おぞましき事である。