常識?それとも習慣?。

  女房の育った地域は男性上位の土地で『稼ぎ男に回し女』という言葉があるほどに、男は働いて稼ぎ、女は男の稼ぎを上手にやりくり(家計を回す)して家を守る土地柄だった。
  ゆえに、男の発言が強く、女はものを言わない。だから、新婚生活で不自由があっても女房は何も言わなかったが、顔や態度が不満を訴えていた。それが判るので理由を聞くのだが、当然の事ながら女房の口は毎度重かった

  私はそれにイラ立ち、内心では(離婚やむなし)とすら考える事が度々だった。
 
  女房のその強固な態度が崩れたのはある日の夕食からだった。朝の出掛けに「ゆうご飯は何が食べたい?」と聞くから『鯵の干物かな』と言って出勤し、帰ってきたら、ちゃんと鯵の干物の夕食が用意されていたが、女房の不機嫌さが気になった。
  食後も不機嫌なので理由を聞いたが、例のごとくに口を閉ざしたままである。しつこく聞き出すうちに、女房も些細な事と思い口を開いた。何の事はない、女房は干物が嫌いな上に、その日は鯵の干物が高かっただけであった。
  私は大笑いし、とにかく話し合わないと何も理解しあえないと諭した。そして、女房が常識とする『女はものを言わない』というのは、単なる地域の習慣にすぎない事と諭し、私達は新しい家族の習慣として話し合う事を提案した。(女房の常識と称する習慣が崩れた出来事だった)