家の中の『風の道』

  40年ほど前、まだ私が家を持っていなかった頃。短波の無線局を造る仕事で建築屋さんとお付き合いした事がある。
  雑談の時に「どんな家が住みやすいでしょうか」と尋ねたら『窓の無いコンクリート建てです。そうしたら、南極からジャングル、砂漠までの気候を再現できます』との答えが返ってきた。
  私は自分の事はさておき、腹の中で(こいつもトガッた技術馬鹿だな)と思った。
 
  そう思ったのは、私がもっと若かった青春時代の愛読書『科学朝日』で、米国統治下にあった沖縄の那覇市役所だったと思うが、その設計者が『風の道』という言葉を使って冷房経費を節約する設計をしたのを読んだからである。
  離島の電力というものは、ほとんどディーゼルエンジンにより発電されている。ゆえに電力容量を簡単には増やせないし、他所からの電力応援も望めないから、使用電力を少なくする事は第一に考えなければならない事であった。
 
  今は省エネの考えが進んだので『風の道』という言葉は一般的になり、ペンションなどの名前に使われる様になったが、昭和30年代中ごろにはそれほど一般的な言葉ではなかった。
  なぜなら、その頃の一般住宅は当たり前に『風の道』があったからである。当時の庶民の住宅は玄関を入ると中廊下があり、中廊下の南側に居間や客間があり、北側に台所や便所が作られていた。
  そして、庶民がエアコンを持てなかった時代だったから、夏の暑い時期はすべての窓を開け放って風を通して過ごしたものであった。
 
  今の私の家もそれにならっている。東西南北の窓を開け、網戸の外に扇風機を置いて外気を部屋に送り込めば、エアコン無しで夏を過ごせるはずなのだが、やはり盛夏の時期は暑くて、昼間は一階に下りて暑さをしのいでいる。
  まあ、そんな生活も梅雨明けからお盆過ぎまでの1ヶ月くらいの事である。そしてついに、今週の火曜と水曜はTシャツ1枚では涼しく感じる日になり、長袖を着た。今年の盛夏もついに終わったのである。(ヤレヤレ今年も暑かった)

蛇足
  最近のマンションには風の道が無い。ゆえに、東日本大震災後の計画停電ではマンション住まいの方々はひどく苦労されたはず。ブログにもそんな様子が沢山書かれました。しかし、その後に建てられるマンションも、ほとんどが『風の道』の無いウナギの寝床的マンションです。(総合技術の無いトガッた建築馬鹿は今も生息しているのだ・なぜならその方が安く造れるから)