私の見た他人の死体。

  この歳になるので死体は何体も見てきたが、それはほとんどが身内であり、きれいな死体であった。ただ、2体は縁もゆかりもない事故死体である。
 
  中学生のころに見たのは、地元の警報機の無い無人踏切で電車にはねられた小学校高学年男子の轢死体だった。電車に轢かれた原因は無人踏切であった事に主因はあるが、本人も貸し本屋で数冊の漫画を借り、読みながら踏切を渡ったという。
  私が見に行った時は筵の様なものが掛けられていたが、隙間から腕だか足だかの白くて細いものが見えた。血糊で汚れたそれを見て自分の体も浮き上がる様な気がした。
 
  30歳のころに見たのは、千葉県大原の海岸にある崖から飛び降り自殺した女性の水死体だった。私が崖の上から見たのは飛び降りてから数日後だったが、海が荒れて引き上げる事ができない水ぶくれ死体で、腸内発酵で腹が膨れ上がり、服も波で洗い剥がされた半裸状態だった。
  原因は失恋による飛び降り自殺だったというが、あのむごたらしい死体は、彼女を捨てた男の所に戻るのではなく、彼女を一番愛し一番心配した両親の元に帰るというのを、ひどく哀しく思った。