人生は地図の無い旅。

 人生にもともと地図などあろうはずがない。しかし、人生にも指導標の様な親の助言や人生を指し示す本などがある。またしかしであるが、その指導標は正しく目的地を指し示していない事もあるし、聞き間違えや読み間違えもある。
 また多くの場合、人間は指導標だけでなく、日ごろから誰かの体験を聞いて自分の道を決める事も多い。ここでまたしかしであるが、親に進路を決められて首に縄をかけられて自分の望まぬ方向に連れていかれる事もある。はたから見れば、縄を曳く親の敷いたレールを楽々と進み、高みに達する王道人生に見えるかもしれないが、曳かれている者にはそれが苦痛である事もある。
 
 人生とは、指導標にも道を教える者の言葉にも誤りや誤差が含まれていると思わなければならない。だから、道を選ぶ時は遠くを見渡してその道を想像しなければならない。
 昔、モンブラン初登頂の話を聞いた事がある。緩やかだが崩れやすい古い階段を登るか、急峻だがしっかりとした新しい階段を登るかで、新しい階段と表現された方を登った登山隊が初登頂の栄冠を得たという。人生に似た話である。
 私の経験では、人生の成功談はあまり当てにならない。それは成功者の道を丸写しで真似しても成功しない事で判る。それは、やり方は真似できても条件が違うからだと思う。
 だが、それとは真逆の失敗談の方が人生に役立つと私は思う。なぜなら、失敗談を話す人は失敗の原因をちゃんと分析している事が多いからだ。それに、失敗談は聞いていて面白い。
 
 ここまで書いたので私の失敗談を1つ。昔、安アパートに引っ越した時、火事が心配で就寝直前にストーブを消すと、1時間もしないうちに寒くなってくる。いろいろ考えて、部屋の中にテントを張って寝る事にした。
 ところが、テントは出入り口が小さいので、毎日蒲団をたたむのが面倒くさくて万年床にしていたら、テントの中が臭くなってしまった。
 山でテントを使う時は、毎日張ってたたんでするから自然と湿気も抜け、匂いなど無かったが、防風防水性の高い布で作られているテントに湿気のこもるのは当たり前なのだが、経験するまで気づかなかった。
(だって部屋にテント張って寝てる奴なんて見た事も聞いた事もなかったから)