説得と納得の違い。

 歳をとって技術遅れになった無線屋なんて、現場には邪魔なだけ。歳くってるだけに、お茶くみに使うわけにもいかない。てなわけで私も熟年にさしかかる頃に現場ごめんとなった。
 
 そして、お客様の技術相談をする役になった。電子機器が高度化すると、商品を買って頂いても使い方が判らないという事が起きてくる。パソコン・スマホなどがその最たる物なのだが、それでもキー入力でディスプレーに変化が起きるからまだよい。
 身近な物ではFAXなどもお年寄りには扱いにくい機械であった。何を売るにしろ、買って頂いた時に説明したり、使用するうちに生じた疑問などに判りやすく説明するのが、技術相談の役目であった。
 
 営業の者と一緒にお客様に説明するのだが、これが難しい。たとえばFAXでも、買い替えのお客様なのか、初めてお買いになるお客様なのか、お若いかお年寄りかでも説明は変わってくる。一番大切な事は、お客様に正しい商品のイメージを持って頂く事が重要となる。
 ところが、人間にはプライドというものがあり、時に『よく判っているから説明はいらん』とか『うんうん』と相槌を打っては下さるのだが理解できていない方もおられる。
 
 そして後日。『判っている』と言ったお客様から『前のに比べて使いづらい』とか『こんな風に使えると思ったのにできないじゃないか』などと苦情を言われる。たいがいは操作方法が変更になっている事の方が多いのだが、そうなると『操作方法は変えるな』と言われてしまう。
 相槌を打って下さった方からは『私には使えないから引き取ってください』などと言われる。返金できないむねを伝えると、これまた苦情となるから、最低限の使い方をお教えする事となる。
 
 現場を退いた頃にはすべてをお教えしようとしたが、しばらくしてお客様に合わせて過不足のない説明ができる様になった。そして、お客様との関係は『説得する』のではなく『納得していただく』事だと気付いた。
 『説得』は洗脳みたいなもので、ご本人の意志とはかかわりなく押し込むものだから、時間が経てば薄れる。ゆえに苦情の温床ともなる。
 『納得』はご本人が理解される事であり、それを足がかりに更に新しい展開も開けるものである。だから次の商品のお買い上げにつながったりする。