ダボシャツと893。

 漫画にチンピラを主人公とした『ダボシャツの天』というのがあった。だがしかし、いつからダボシャツは893のユニホームになったのだろう。
 つらつら考えるに、私が子供だった頃のダボシャツは893のユニホームというより、男気商売の着物であった。
 
 子供の頃に住んだ借家の隣にはテキ屋の親分が住んでいた。平素の表向き商売は古物商であったが、祭りとなると露店の地割を仕切った。
 駅から遠い方角には植木屋の親方が住んでいた。あとは、大工の親方や鳶の親方。それら、男達を仕切る親分親方はそろってダボシャツを着ていた。
 もう一つそろっていたのは、それぞれの親分親方は立派な彫り物を背負っていた。彫り物とは、現代語にするとタトゥーとか刺青(入墨)となる。
 昔は、男達を仕切る親分親方は背中に彫り物を入れ、胸にまで彫り物を入れたつわ者もいた。彫り物は輪郭の筋彫りから色入れまで時間がかかり、その間は痛みに耐えなければならない。
 また、彫り物は体に障るので、1回に1坪(握りこぶし1個分)しか彫れないし、彫った後には熱も出る。上り龍から坂田の金時まで、まさしく男気の具象化が彫り物であった。
 
 ところが大きな欠点がある。彫り物は針を並べて束ねた道具で皮膚を斜めに刺し、持ち上げて墨や色を入れていく。墨も浅く入れれば黒く見え、深く入れれば青く見える。そんな風に皮膚をはじくから、汗腺は死んでしまう。だから、夏はひどく暑い。
 暑いからといって、皮を脱ぐわけにはいかないので、必然的に風通しの良いダボシャツが必需品となる。だから、男気で彫り物を背負った893もダボシャツを着た。しかし、今は彫り物を入れる親分親方も893もめっきり減った。そして、ダボシャツ=893という公式だけが残った。
 
 まあ、クドクド書いたけど、これからがこの話の落ちです。
 先日、エホバの証人が布教にきた。私はダボシャツ姿で玄関を開けた。若い女性信者は話そうとしたが、中年の女性信者は即帰ろうとして、若い信者を引っ張る様にして短時間で帰った。
 実は女房もダボシャツの公式を知らずに、吉祥寺のマーブルという商店で投げ売りされていたダボシャツが涼しそうに見えて買ってきたのだ。それが、エホバの証人撃退グッズになるとは思ってもみなかった私である。(若い信者には通じなかったけど!!)