私が無線職人にしかなれなかったわけ。

 無線通信士や技術士になるには、理系の資格であるから数学に弱いと本当は成れないはずなのだが、私は数学どころか算数も弱い。とにかく数字が好きになれない。まあ、もともと記憶力が悪いから、無味乾燥な数字というものが覚えられない。
 それに、リズム感も無かったから、モールス信号も覚えられなかった。私が「ツートツーツー」などとやっていたら、それを聞いていたブラスバンド部の友人がモールス信号を覚えてしまった。
 その友人いわく『リズムだよ・リズム』と言われてしまった。それを聞いて私はモールス信号に挫折し、通信士の道は頓挫した。
 
 社会人になると一人前にランクアップが目標になった。渋谷のガード下の飲み屋で飲んでいる時に先輩から『課長になりたければ課長の仕事をし、部長になりたければ部長の仕事をする事だ』と言われた。それを聞いても私の頭には『?』が生えただけだった。
 簡単に言えば、課長会議の資料ならば、そこで審議される内容や質問に答えられる資料を作れという事であった。
 別の時には『数字は頭3桁を記憶しておけ、2桁の四則演算は暗算できる様にしておけ』と言われた。この時は『?』は生えなかったが『ゲロゲロ』気分になった。
 簡単に言えば、頭から3桁の数字を覚えておけば、4桁目が判らなくても誤差は1%以下になる。2桁の暗算は会議の場で計画が変ったら、予算がどれくらい変わるかを大づかみで把握するために必要になる。
 
 私にはそれができなかった。数字だって頭の1数字を覚えるのがやっとだったし、暗算も1桁しかできなかった。
 数字嫌いの私は電話番号を覚えるのも苦手だった。やっと記憶できる様になったのは、ブラスバンドの友人が言ったリズムだった。数字の羅列の電話番号にリズムを付けて覚えてみたら覚えられたのだ。でも、その時は携帯電話の時代になっていた。
 
 携帯電話なら必要な電話番号を記憶できる。リズムをつけて覚えられる様になったのに、時すでに遅しである。
 いま、唯一リズムで覚えている電話番号は自分の携帯電話の番号だけとなった。一般電話の時代には、自宅に電話する事が多かったから嫌でも覚えられた。ところが、携帯電話となると自分自身の携帯に電話する事がないので、自然とは身につかない。
 電話番号を聞かれても、その度に携帯をポケットから出して番号を確認するのは格好が悪い。昔を思い出してリズムをつけて覚えた。家族の電話番号は?私ではなく携帯電話が覚えている。(それじゃ駄目ジャン!!・ by春風亭昇太