中年で目が壊れた。

 私の左目は、20歳の頃の不健康な生活により乱視になってしまった。中央の縦方向に乱視が入っているので、手で交互に目を塞ぐと左目は右目の画像より左右が縮まって見える。
 これは1人暮らしの時、ストーブもコタツも無い生活をしたので、布団に入っていないかぎり寒さをしのぐ方法がなかったためで、胸に枕を当てて腹ばいで本を読んだり、右を下にする寝相だったのでその姿勢で本を読んだりした。
 すなわち、左目の涙はすぐ鼻に排出されてしまい、左目の角膜は涙から与えられる栄養と酸素が不足して歪み、ほぼ縦方向の乱視になった。
 だから、視力検査表のCの字みたいなランドルト環の開口部が上や下になると区別がつけ難かった。それでも、視線をチョット対象物から外すと識別できるというテクで中年になっても視力は左右ともに1、2だった。
 
 40歳の頃に図面書きで目が疲れると視線を外に向けていた。この時、ピントスピードの低下に気付き、それが老眼の初期症状だった。
 その後、図面で直線を引くと、いま引いた直線の右端がグニャリと曲って見える事があり、たびたび引いたばかりの線を見直す様になってしまった。
 そして、眼科に行ったら『黄斑のすぐ近くに逆C状に水が溜まっている』と言われた。病名は『中心性網脈絡膜症』という早口言葉の様な病名だった。
 それから10年位たったらテレビで『加齢性黄斑変性症』という症状のよく似た病気の事が流れた。どちらの眼病も1番感度の高い黄斑が凸凹になるので画像が歪んで見えてしまう。
 
 両眼共に不具合を持つ目だが、黄斑は言ってみれば『マクロレンズ』で、小さな物や文字などを注視するのに必要であり、自動車の運転などに必要なのは視野のすべてを使う『ワイドレンズ』だから不自由はない。(緑内症の様な視野の欠けはない)
 多分、黄斑は視覚の中で脳と視覚情報の高度な処理をする様にできている気がする。だから、漢字など複雑な図形の識別も瞬時に判別できるのだと思う。
 また、黄斑で物を見る時には自然と集中するため、いくぶん前かがみの姿勢になるが、全体に気を配る時にはいくぶん反り身になる。これも視覚に関連する肉体反応だと思われる。
 
 多分、安楽椅子に寝そべって『太陽がいっぱいだ』と言っている男に逮捕状を渡したら『ナヌ!!』と上半身をもたげて注視する事だろう。(古!!ラストシーンも忘れた)