親の思惑。子の思惑。

 嫁の実家と婿の実家の思惑は正反対である。あるお宅にはお嬢さんが2人と息子さんが1人いた。お子様は全員結婚されたのだが、ご両親はお嬢様を近くに住まわせた。しかし、財産は息子さんに継がせたいと願っていた。
 お嬢様を近くに住まわせたのは、老後の介護は嫁でなく娘にやってもらいたいと奥様は考えての事。だが、旦那さんは一代で築いた財産をすべて息子さんに譲りたいと思っていた。
 その真意を突き詰めると、奥様は介護で自分の隠しどころを見られるなら嫁でなく娘にと考えての事。旦那さんは戦後のみじめな生活から自分一代で築いたものは、苗字を継ぐ息子に残したいと考えていた。
 
 ところが、結婚には必ず相手がいる。すなわち、お嫁さんやお婿さんの相手側家族も同じ様に思っているはずであり、両家庭とも娘や息子を引っ張り合う事になる。
 かく言う私の所も似たり寄ったりである。結婚した方の息子はあまり実家に寄りつかない。嫁さんの実家は自営業なので、退職した我が家よりも金銭的余裕のあるのが魅力的に見えるみたいだ。
 嫁の実家の金銭的余裕は婚約時代から発揮された。娘の要望を聞き、娘が住みたいという町の駅近くに賃貸マンションを手配して住ませる準備をしていた。だから親に相談しない息子の我が家は、結婚前に綱引きに負けてしまった。
 マンションの契約は嫁の父親名義であり、賃貸料は毎月息子が嫁の実家に持っていく。好立地のマンションだから賃貸料は息子の持っていく金額以上になるはずで、不足分は嫁の実家が負担しているのだろう。
 
 結婚しない息子も口数は少なく腹の底は見えないが、親が死んだら遺産が入ってくると目論んでいる節がある。勿論、結婚した方も同様で、たまに帰ってくると『親が1人になったら俺は放っておかないよ』と言う。
 だが、老親は肉体が衰え、知力・判断力が衰える事など2人とも考えていないし、介護が必要になるかもしれない事なども考えていない。
 介護される前にオレオレ詐欺などに引っかかったら何と言って親を責めるか判らない。いや判る。きっと『こんな事になる前に生前相続をしておけばよかったんだ』と言うに違いない。