寒さで人間は馬鹿になる。

 人間の脳は、体温が40度を越えるとまともに働かなくなり、うわ言を口走る事もある。低体温でも脳は働かなくなり、体温が32度になると馬鹿になるだけでなく肉体も死の危険に直面する。
 脳のオーバークールなんてめったに無いだろうと思っても、スキー帽もかぶらずに髪の毛を白髪のごとくに凍結させて滑降していると、頭が馬鹿になってコースを外れたのに気づかず事故になる事もある。
 
 名前は忘れたが、ある登山家の話では冬山でベースキャンプに向かって下り始め、ベースキャンプの脇を通ったのに、それに気づかず谷に向かって歩いてしまい、仲間が抱き止めて難を逃れたというのがある。
 その他にも、かなり以前にツアースキーで遭難し救助隊が到着した時、低体温症になった遭難者が『気持ちよく休んでいる』と言って救助を断ったというのがあった。勿論、救助隊は救助したのだが、その人は低体温症で亡くなってしまった。
 オーバークールの問題点は、脳が冷えて正常な判断ができないのに、脳自体の判断力が衰えているから異常を自覚できない事である。そう。脳自身は自分の間違いを訂正できない臓器なのです。
 
 実はパンダの2回目の試験走行で、私はそれに近い症状になった。脳が冷えすぎてアクセルワークがラフになったのか、体がかじかんでそうなったのか判らないが、ラフなアクセルワークはブレーキの多用になり危険の度合いが増していたと、いま判る。
 2回目の試験走行では、寒さに負けて途中から引き返して事故はまぬがれたが、そのまま長時間走り続けていたら自損事故くらいは起こしていたかもしれない。歳のおかげで無理がきかなくなったのが良い方に作用したと思っている。
 常に『ころばぬ先の杖』ができればよいのだが、せめて『年寄りの冷や水』の禁を犯さず人様に迷惑をかけない様にしないと、ただただ無駄に歳をとってきたお馬鹿と言われてしまいそうだから気をつけよう。