物の壊れ方。

 単純な物の壊れ方は単純である。コップだの皿だのは欠けるか割れるかである。ところが、少し複雑になると壊れ方も複雑になる。例えば箪笥などでも引き出しが固くなったり、擦り減ってガタガタしてくる。物が複雑になると壊れるのではなく、調子が悪いと表現する壊れ方をする。
 真空管式のラジオやテレビの壊れ方はさらに複雑で、正常に動いていても、時に雑音が出たり、映像が乱れたりした。複雑になっただけに完全に壊れるのではなく、時々調子が悪いという人間の健康にも似た故障という壊れ方をする。
 
 真空管時代のラジオは、調子が悪くなったらとりあえず叩いてみるというのが素人修理の最初の行動であった。今となれば、こんな方法は漫画の世界でも稀になったが、根本的には接触不良という故障の原因は今も高い確率で発生する。多分、原因不明で直ってしまう故障のトップは接触不良かもしれない。
 固体電子化された現在の電子機器はパネルごとの交換を前提として作られている。たとえば、ある電子回路が1パネルで作られていれば、その1枚すべてを交換する事になり、パネル上の1個の電子部品を替えるという事はほぼない。
 黎明期のワンボードパソコンなどがそうだった。
 
 今のパソコンはCPUの載ったメインボードに様々なサブパネルがささっている。だから、故障が起きた時にメインボードだけとかサブパネルの故障の起きた部分を差し替えて機能を回復させる。
 実際は、サブパネルの故障ならより高機能の物に買い換えたり、メインボードの故障でも、もっと高機能のメインボードを買ってくる事になる。
 ゆえに、各パネルの故障原因など調べる事は皆無に近い。
 
 プロの無線機も固体電子化された頃から現場で半田鏝を振り回して修理する事はなくなり、プロの無線屋がパネル交換屋に身をやつし、メーカー修理に出す荷造り屋になってしまった。
 勿論、メーカーでも修理不能と判定されればパネルは廃棄され、同機能の新品を修理費用と同程度の金額で買う事になる。ことに、最近はほとんどのパネルにCPUが搭載され、パネルコントロールのソフトウェアーがROM化されている。メーカーにとっては無線機の主要機能よりもROMの中のプログラムの方が企業秘密である事も多い。
 だから、パネルごと粉々にしたりROMを外して廃棄される。
 
 とにかく現代はブラックボックス化された商品が多い。テレビを買っても取り扱い説明書には回路図すら書いてない。無線屋としてはフラストレーションの溜まる時代になってしまった。