私の人生の目標は鯨だった。

 子供の頃、鯨の肉をずいぶん食べた。正確に言えば赤身を食べた事はほとんどなく、よく食べたのはクジラベーコンだった。酒を飲む様になってからは、自分の金で渋谷のくじら屋で鯨の刺身も食べられる様になったが、クジラベーコンの味を忘れた事はない。
 
 戦後の日本は捕鯨大国で、母船と捕鯨船で船団を組んで南氷洋に出漁していた。そして何より私の心が強い印象を受けたのが『親子連れの鯨は子鯨から撃つ、そうすると親鯨は逃げない。次に雌鯨を撃つ、雄鯨は逃げない。そして最後に雄鯨を撃つ。』
 順番を間違えて雄鯨を先に撃つと、子鯨と雌鯨は逃げてしまう。雌鯨を先に撃つと雄鯨は逃げないが、子鯨は逃げてしまい、いずれは鯱などに食われてしまう。
 
 子供だった私は、雄鯨の生き方が男の生き方だと思った。(今もそう信じているけど) だが、クジラベーコンはずいぶん長い間食べていない。捕鯨条約によりそこいらのスーパーでは手に入らなくなってしまったからだ。