古くて新しい問題。嫁姑。

 女房に、地元の集会で隣同士に座った事から縁を持った年上の旧家で大地主のお嫁さんがいた。つれずれに話すうち、その旧家のお嫁さんが『私、結婚してから泊りがけの旅行に行った事がないの』と言うので、近くの1泊旅行を計画して誘ってから『遊びに来ない』と電話をもらうほどに仲が良くなった。
 鬱積していた姑への思いまで話された時には、さすがに女房も戸惑ってしまったものの(私がゴミ箱になってあげよう)と心に決めて愚痴を聞いてあげた。
 そして姑が死に、自分が姑になったら電話が来なくなり、たまに女房が近くを通った時に寄ってみても、本人は留守の事が多くなった。そして、お嫁さんいびりの噂が聞こえてくる様になった。
 自然と縁が遠くなったのは、うちの女房をゴミ箱にして散々愚痴を聞かせたから会いたくなくなってしまったのだろう。
 私は考え込んでしまった。姑にいびられていたのだから、自分が姑になった時は同じ過ちを繰り返さないという事はできなかったのだろうかと。
 
 群馬に住んだ時、体育の日に体育館に遊びに行き、私は友達を作れなかったが女房は素敵な奥様と知り合った。趣味はダンスというハイソな人だった。旦那様も旧家の長男だった。
 私達から見れば、なに不自由ない生活と見えていたが、なぜか定年離婚してしまった。離婚理由は『家族が集まった時に次男三男の嫁は歓談しているのに、私ばかりが姑の台所の手伝いをさせられる』だった。
 多分、姑としては跡継ぎの長男の嫁に家のしきたりを教えたくて、長男の嫁だけにすべてを伝え様としたのだろう。だが、嫁からすればいびられていると感じたのだろう。その離婚により家督は次男が継ぐ事となった。
 その奥様も薄々は姑の気持ちは判っていた様で、離婚後に語ったのは『姑の考えをひっくり返してやりたかったの』だった。
 この奥様とは、私達が東京に住んでからも時々電話をしていたが、女房が「1人で不安にならない」と聞いたら『私の具合が悪くなったら帰ってあげてもいいと思っているの』と答えた。
 離婚の時、退職金のほとんどをもらって別れたがいつかはそれも尽き、姑に仕込まれた料理の腕前で寮の炊事の仕事をする様になり、自然と電話の回数も減って年賀状だけの付き合いになった。
 私は考えてしまった。覆水盆に返らずというのに、具合の悪くなった元女房とよりを戻す男がいるだろうか。