銀行は実業か虚業か。

 テレビドラマ『半沢直樹』は高視聴率をたたき出し、続編を望む声の中で意外な結末で完結した。銀行業界の裏をチラッと見せてくれて楽しめた。しかも、ドラマの終了後に『みずほ銀行』が反社会勢力に金を都合していたという現実も暴露され、推測でしかなかった銀行業界の暗部まで明らかになってしまった。
 
 そんな事で思い出したのは、東京駅丸の内に定期的に街宣車を出していた右翼政党党首の演説であった。
 丸の内は三菱グループの牙城であり、当時も三菱銀行は日本一の銀行であった。その頃の私は技術だけに興味のあった無線屋だったので、演説を聞いても銀行に対して言いたい事を言っていただけの気がしていた。
 しかし、私も歳をとれば世の中の仕組みも金の流れも気にする様になる。そして、あの右翼党首が銀行に向かって演説していたのは、時期的には高度成長時代の幕開けの頃だった事を思うと、その時期に銀行が実業から虚業に変化した時期であったのだと思う。
 
 銀行は、元々は企業に資金を提供するのが主務であった。しかし、日本経済が上向くと貸付の利子よりも株や債権への投資の方が利幅があり、次第に実業から虚業へと傾いて行った。
 その最たるものはバブル景気である。株や債権よりも儲けの大きな土地ころがしを銀行は自作自演した。当時の銀行も不動産業も『土地は生産されません』と値上がりだけを印象付ける言葉で庶民にまで購入を勧め、売り買いを繰り返して自ら不動産価格をつり上げ、そしてハジケた。
 
 そうなる事を予想していたか否かは、あの右翼党首に聞く事はできないが、この世で額に汗して働く者が地に足を着けた実業にたずさわっているのであり、今風に言えばマネーゲームで金を得るのは虚業であると言っていたのだと思う。
 もうひとつ思い出した。サラ金ができた時、私は親会社が銀行などとは思ってもみなかった。ところが、テレビCMが出せる多くのサラ金が大手銀行の子会社だったのだ。大手銀行はそんな事にはホッカムリして、多くの庶民に高利で金を貸し苦しめてきた。これは、自分が直接手を下さなければ何をしてもよいという倫理を外れた行為であり、国家を左右できるほどの超一流企業がなすべき行為ではない。