シリアの化学兵器はどちらが使ったか。

 シリアでサリンが使われ、多数の市民が死んだ。だが、アサド側は反政府側の仕業といい、反政府側はアサド側が使ったと言う。現場が混乱する戦場においては明確な証拠が得られずに、双方が相手側を非難するのが当たり前である。
 また、宣伝戦においては敵を非難する事により味方の結束を強める事ができる。ゆえに、時として相手側の攻撃を装い、味方が味方を攻撃する事がある。
 すなわち、敵側に攻撃されたというストーリーを自作自演し、それを攻撃の口実にして戦いの火蓋を切るという事を行うのである。そして、この方法は軍事的に優位な方が多用する。
 
 プロパガンダは自国で支持者が増えれば成功であり、諸外国に対しては戦争突入の正当性を信じ込ませれば成功である。そして、プロパガンダが真実であるか否かは問題にならない。要は、相手こそ悪であると信じ込ませればよいのだ。
 市民は死を恐れ、力ある存在に安全の保証を願う。ゆえに、力ある者にはプロパガンダは重要な情報統制政策となり、外国には戦う必然性を信じ込ませる政策になる。
 
 チャップリンの映画『独裁者』の名場面とされるヒンケル似のユダヤ人が平和について演説する場面がある。多くの人が名場面と支持するが、私はあの場面がプロパガンダに見えて恐ろしくて仕方がない。
 なぜなら、多くの力ある者は最初から恫喝するわけではない。支配者となる欲望を持つ者は、最初は市民に受け入れられる態度で接してくる。そうでなければ市民は支配欲のある者を受け入れない。
 
 ヒトラーだってユダヤ人を生贄にし、かたやゲルマン民族の優秀性を宣伝してドイツ国民の心をつかみ、徐々に統制を強め、最終的には国民を戦争という地獄に放り込んだ。
 チャップリンは、ヒトラーの映像を見て『こいつは恐ろしい役者だ』と言ったらしい。そして映画『独裁者』を作った。だが、そのせいでイギリス国民だったチャップリンアメリカから国外追放されてしまった。
 後年そのアメリカを皮肉って、亡命した王様がアメリカから国外追放させられるというストーリーの映画『ニューヨークの王様』を作った。アメリカの過剰なコミュニスト嫌いも描かれている面白い映画である。