阿比留瑠比の『はだしのゲン』への偏見。

 特徴的な一言『「はだしのゲン天皇への異様な憎悪』が気にかかって仕方がない。
 
 この言葉は、私には1回もいじめられた事のない『いじめっ子』の発言としか写らない。阿比留瑠比がどの様な輩か判らないが、白土三平の漫画『赤目』には、殴った奴には殴られた者の痛みは判らないという意味のセリフが出てくる。
 今の教育界で『いじめ』の問題が盛んに議論されている。そんな世相の中で、マスコミ関係と思われる阿比留瑠比が『はだしのゲン』と『いじめ』との共通点に気づかずに『天皇への異常な憎悪』と語る思考が理解できない。
 
 私も人を殴った事が無いわけではないし、殴られた事もある。そして、殴った手も痛いが、殴られた痛みはそれに倍するものである事を知っている。ましてや、軍国国家の手先となった教師が竹刀や履物で生徒に大和魂を叩き込む教育の下で中沢啓治は育ったはずである。
 テレビ番組『半沢直樹』の決め台詞『倍返し』が超有名になっているが、作者の中沢啓治が信じた国家と、その国家から裏切られ見捨てられた結果、天皇に異様な憎悪を抱くのも、しごく当然である。なぜなら、中沢啓治は国家にいじめられた人間なのだ。
 
 それらの事を気にもとめない阿比留瑠比という人物が、極力中立を守ろうとする日本のマスコミにいるというのも不思議ではあるが、それこそが日本の言論の自由が守られている証拠でもある。
 ただ、私からみれば阿比留瑠比は現時点まで勝ちっぱなしの人生を歩んできた人間か、他人の事を推し量る神経の抜けた奴か、根っからのサディストなのだと思う。
 あるいは、戦前戦中派の血のにじむ努力によって築き上げられた平和日本でぬくぬくと育ち、全体主義の恐ろしさを知らない人物なのかもしれない。
 
 私は『はだしのゲン』に何も言わない。あの漫画には図書館で閉架にすべき劣情をそそるような描写もなければ、特定の思想信条も感じない。中沢啓治という元軍国少年の体験した軍国教育と、信じ続けた国家の裏切りと欺瞞性が描かれただけだと思う。
 中沢啓治が、自分をいじめ続けた上に裏切った国家に対し、『倍返し』ならぬ『十倍返し』を考えたとしても、誰もそれを責める事はできない。中沢啓治は暴力的仕返しをしたわけではなく、漫画という自己表現で仕返しをしたのだ。
 そして、言論や表現の自由を保護するのは民主国家の根幹思想なのだ。そして『はだしのゲン』を閉架する事こそ言論統制の一里塚になるのだ。
(安倍政権が深く静かに言論統制の方向に進んでいるのが恐ろしい)