山で出会う厄介な生き物たち。

 目に見える大きさの有害虫の代表は、ヒル(蛭)・ブユまたはブヨ(蚋)・ダニではないだろうか。
 
 ブユは皮膚を食いちぎるので痛いし血もにじむ。ヒルは音もなく血を吸っていく。ダニは皮膚を食い破り頭を皮膚に食い込ませて血を吸い続け住み続ける。もし、ダニが皮膚に食い込んでしまうと外に出ている腹を引っ張っても取れないし、無理をすれば腹が千切れて頭が皮膚の中に残ってしまう。
 そんなダニを追い出す簡単な方法は、ダニが食いついた皮膚の周囲にタバコのヤニを塗る事だ。私は子供の頃、頭にシラミがたかった事がある。細かな櫛で髪をとかせばシラミは落ちるのだが、子供にとっては髪の毛が引っ張られて痛いので逃げ回っていた。
 すると、祖父がキセルの雁首のヤニを爪楊枝に付けて頭のそこいらじゅうに塗りつけた。気づかぬまにシラミはいなくなった。ただしシラミが死んだわけではない。シラミなどの吸血昆虫を殺すには殺虫剤に頼るしかない。
 終戦後に長兄は全身が真っ白になるほどDDTを頭や襟首にかけられた事があるという。
 
 皮膚で吸血しているヒルにはタバコの火を押し当てればよいと聞いた事がある。タバコの火で撃退する方が手で引き剥がすより、その後の出血が少ないとも聞いている。
 ただ、私はタバコを吸わないから火もヤニも手に入れる方法がない。タバコの葉を水に漬けたタバコ液にヤニと同様の効果があるかどうかは実験していないから判らないし、聞いた事もない。
 無農薬栽培で木酢液を農薬代わりに使うという話もあるので、タバコ液も一定の効果はあるかもしれないが、虫除け効果はヤニの方が強い気がする。
 
 あと厄介な大型動物は熊。小型動物では蛇だろう。だが、野生動物は人間を恐れるので、人間が接近する事をあらかじめ知らせれば逃げるという。
 まあ、私はこれには少々異論がある。野生動物は人間を恐れるのではなく、怪我を恐れるのだと思う。切り傷や小さな棘でも、器用な手や病院を持たぬ野生動物は傷が化膿すれば死んでしまうかもしれないのだ。
 話が横道にそれたが、熊には熊鈴。それも高い音の鈴の方が効果があるとされる。カウベルよりもシャンシャン馬っこの鈴の方が良いらしい。蛇には鋭い地面振動が効果があるとされる。
 その両方の役目を果たす道具を探すと、山伏などが使っていた錫杖が最適だと思う。錫杖は元々コブラ除けに使っていた杖だと聞く。歩きながら石突を地面につくと鋭い振動が蛇に伝わり逃げるという。また、錫杖のてっぺんには金輪が数本付いているのでそれが甲高い金属音を発するので、鈴なみに熊にも効果がある。
 
 余談ではあるが、私は南京虫に弱くて足など食われるとひどく腫れてしまう。ある時、山小屋で南京虫に食われ下山に苦しんだ経験があり、それからはナフタリンを持って山に行っているが、最近は日帰り登山となったので効果のほどは判らない。