日本の会社員は口が軽い?

 私が勤め人だった頃は会社の帰りに仲間と呑むのは常識だった。私も酒は嫌いじゃあないのでよく呑みに行き、大体一回の呑み代は2千円くらいだった。
 だが、仲間内で呑むと話題は仕事の話になる。最初は建設的意見なども出るが、酔ってくると上司や他人の悪口や社内の不平不満になる。
 私はそれが大嫌いだった。『壁に耳あり障子に目あり』で誰が聞いているか判らない。酔えば自然と声が大きくなり、話す内容も不平不満も外部の人に聞かれてはまずい内容になってくる。
 
 サラリーマンは有名な企業になればなるほど社章を付けるので、すぐに身分がバレてしまう。
 通勤電車の中での事だが、酔ったサラリーマン連中が騒いでいた。襟には三井の社章が付いていた。会話から職制も数人の苗字も判り、何人かは乗車駅だけでなく降車駅まで判ってしまった。
 正式名称は忘れたが、その当時は会社紳士録と呼ばれる本があり、多分一番偉ぶっている奴くらいは判るんじゃあないかなと思ったものである。現代ならば、インターネット検索で調べれば何かヒットするかもしれないほどに馬脚を表していた。
 
 個人的な悪さだけでなく、酔っ払ったサラリーマンの会話からは企業秘密が漏れ聞こえたり、時には酔っ払いの会話から汚職などの疑いのある話を新聞記者に聞かれてバレた事もある。
 日本のサラリーマンとは口の軽いものである。また誰しも酔っ払うと警戒心が薄れるものである。さらに、仲間内で仕事自慢をしたいがためについつい口が軽くなり、企業秘密に抵触する様な事を話してしまうものである。
 通信の秘密の厳守を義務付けられている無線屋の私は、そういう口の軽い連中と酒を呑むのが嫌いだった。そして私はいつしか陰気な酒呑みになっていた。