ベラドンナちゃんは色っぽい。

 手塚治虫のラフワークだった『火の鳥』の中に事故で脳を損傷した少年の話が出てくる。脳の一部を電子回路で補ったがゆえにロボットに恋をする話だった。そうかと思えば、私が青二才だった頃にはアメリカで愛車の墓を作った話もあった。映画には『クリスティーン』なんていう自動車に取りつかれるホラーもあった。
 
 じつは、私もシルバーウィングのベラドンナちゃんに愛着とは違う感情を抱いている。単に600ccのエンジンが付いた2輪車なのだが、これが只者ではない。
 長くて重くてグラマラスで落ち着いているのに、十字路などで左折する時の動きが良い。倒れるかと思うほどに速度を落とし、倒れ込む様にカクンと左にハンドルが振れる。そして加速すると車体が立ち上がり軽やかに加速する。
 そのカクンと倒れ込む時の感じが、若い頃に女房がお酒を飲んで力が抜けた時に似ている。腰が抜けた女房を『お姫様だっこ』した日をベラドンナちゃんは思い出させてくれるのだ。
 満タンにすると250Kgを越えるベラドンナちゃんだが、カクンと倒れ込む様に曲がる左折は色っぽい。
 
 とはいえ、言う事を聞かない時もある。オーバースピードでタイトコーナーに突っ込むと、ハンドルがひどく重く、ハンドルでこねてコーナーを抜けるのを拒絶する。私は時々そんな間違いを犯し、その度にベラドンナちゃんから叱られている。
 『俺のいう事を聞いてくれ~』と心で叫ぶが、ベラドンナちゃんは自分のライン取りでコーナーを抜ける。こっちもブレーキキングするのはシャクだからそのままセンターライン越えで走り抜けるが、対向車があったら2人とも?無事ではすまない。
 
 息子のXJR1300はラフな操縦にも応えてくれた。ベラドンナちゃんと重さはたいして変わらないのだが、「やってみな~。お前の要求通りに動いてやるぜ~。でも責任はお前が持ちな~。」と聞えてきそうな乗り味だった。
 息子に言わせるとCB1300の方が乗りやすく疲れないそうだが、あるいはCB1300もベラドンナちゃんに似て、ハンドルをこねる様な操縦を嫌うのかもしれない。(スクーターなら許せても、オートバイだとチョット嫌かも)