幸せのケサランパサラン。

 もう20年くらい前になるかと思うけど、新聞やテレビで『ケサランパサラン』の事が話題になった。形はタンポポの綿毛の様だが、綿毛の下に種子は無く、植物だか動物だか判らないが、化粧品のオシロイの中に住むと言われた。
 
 去年の初冬に、どうも『鬼女蘭』の種子と思われる綿毛が玄関のコンクリートに引っかかっていたので、つまみ上げて部屋に入り写真に撮ろうと黒っぽい布の上に置いて形を整えていたら、綿毛に直接付いていた種があっけなく外れてしまった。
 ゴマよりも少し大きめの種子に、タンポポより少し大きな綿毛が直接付いていて、その形が白髪を振り乱した鬼女の様に見える事から『鬼女蘭』という名が付いたらしい。
 種子の外れた鬼女蘭の綿毛は、まさしく昔話題になったケサランパサランの様であった。
 
 ネットで『鬼女蘭(きじょらん)』を検索すると写真を見られるが、私の知る限りでは、この辺では高尾山に生えているという。高尾山から飛んできたとすると約20~30Kmもこの種子は飛んだ事になる。
 珍しいから、今年はその種を植えてみようと思っていたのだが、種子と綿毛を入れた封筒がどこにしまったか忘れて見つからない。我が家の玄関前の猫の額には、自分で植えた白樺と正木(柾・マサキ)が1本づつあり、それ以外のピラカンサ南天や千両や桑や山椒までもが鳥の贈り物である。
 この雑多な中に鬼女蘭も仲間入りさせたかったのだが、種が見つからなくて残念である。
 
 『ケサランパサラン』の話の出処は定かではないが、私は赤線などから出たのではないかと思う。貧困から人買いに売られた少女達が、いつか自由になれる日を夢見て、オシロイの器の中に綿毛を隠し、自由に飛べる日を夢見て語られた話なのではないだろうか。
 幼くして買われ、初潮を迎えるとほどなく客を取らされ、格上の女郎になれなければ一夜に5~10人もの『チョンの間』の客の相手をさせられる。
 少女の夢も思いも実らせる事もなく体を壊して、20歳前後で無縁仏で葬られる。オシロイの中に住むという『ケサランパサラン』の話には、なぜか寂しい思いがつきまとう。
 
 ケサランパサランの話の由来がそうであったとしたら『鬼女蘭』の種とケサランパサランの様な綿毛を入れた封筒の見つからないのは良かった事なのかもしれない。