無線通信士と無線技術士。

 私は無線技術士でした。モールス信号を覚えられなくた通信士になれませんでした。
 
 若い頃、通信士と技術士のいる所で仕事をした事があります。通信士は船舶からの信号(モールス符号)を受け、電報として文字化したり、国内からの電報を船舶にあてて送信します。ベテランになると机の上で弁当を食べながら電報を受けたり、足で電鍵をたたいて電文を送信しいてました。
 あるいはモールス信号を受信しても直ぐには文字として記録せずに、全電文を聞き終わった後に漢字まじりの平文で書いてしまう人もいました。
 
 私たち技術士は通信士の使う受信機や電鍵の整備をするのが仕事でしたが、完全に調整したはずの受信機の調子が悪いと呼びつけられたり、電鍵のキーストロークやバネの硬さが気に入らないと文句を言われて交換させられました。
 電鍵は通信士が受信している合間に机の下にもぐって取り替えるのが当たり前で、意地の悪い通信士は足で邪魔をしたり、時には蹴とばされました。若かったから悔しかったですね~。
 
 仕事では悔しい思いもしたけど通信士も神経を使かう仕事でした。交信する通信士同士は仲間意識があるかと思いきや意外と意地が悪く、キーの速度をどんどん上げて聞き取れなかった方の通信士が再送を依頼すると『ヘボヘボカワレ』などの電文を連打されて凹んでいました。
 通信士は1日中電鍵を叩くわけですから『手ぶれ』とうい職業病になる人も多くいました。症状は手が震えてモールス信号を正しく打てずに、短点を余分に打ったりしました。通信士仲間では『手ぶれ』と言いましたが一般的には腱鞘炎といわれる病気です。
 
 技術士の職業病は特にありませんでした。ただ、送信機では1000Vを越える高圧直流を使いますので、時に感電死する人がいました。高電圧に触れればほとんど一瞬で死んでしまいます。
 時には20~30Vで感電する人もいました。先輩から聞いた話では、背骨に低電圧の電気が流れると気持ちよくなり、眠る様に失神するといいます。私は幸い死ぬ様な感電も眠る様な感電もした事はありませんが、交流は漫画などの表現通り『ビリビリ』と感じ、直流の感電は『ガツン』と感じるので区別できます。
 面白いのは、交流でも200~300Hzを過ぎると『ビリビリ』とも『ピリピリ』とも感じなくなります。神経が速い変化に追いつかないのだと思います。でも体は電気刺激に反応し知らぬ間にヤケドを負います。