ビッグバイクを買ったわけ。

 私も高校を出て働く様になるまでは親に育ててもらった。でもオートバイが欲しくても豊かではなかったので、親に買ってくれとはねだれなかった。アマチュア無線の送受信機を自作したのだって、小遣いで少しずつ部品を買って3年もかかった。それでも少しお金が足らなかったので、高校の修学旅行には行かずに返金を受けて無線機の部品を買わなければならなかった。
 
 子供の頃から欲しかったオートバイも働いてから買い、3台目にして中古ではあるが、やっとビッグバイクのオーナーになれた。車の方は5台目になるが、1台目は子供連れでの里帰りが大変だったので買い、子育て中の車は必須だったし、子供の成長に合わせて買い替えなければならなかった。そんなこんなで、少なくとも私が育った時よりは豊かな生活をさせてやれたと思っている。
 子供が年頃になったらバイクをせがまれ、自分も欲しかった事を思い出し、根負けして買った。次にせがんだのは車だった。親の稼いだ金を子供は容赦なく使った。欲しい物ができると『友達も持っているんだ』とか言って、時間をかけてせがまれた。
 
 そして、20歳を過ぎてようやく自分で金を稼ぐ様になって、金のありがたさと金を稼ぐ大変さを知り、入ってくる以上に使わないという家計の鉄則も経験で学んだ。だが、出来の悪い我が子は初任給を見せる事もしなかったし、初ボーナスが出たからといって親をファミレスに誘う事もなかった。
 在学中は『働く様になったら大学の授業料くらいは返すよ』と言っていたが、口を拭っていまだに知らんふりをしている。まあ、今は私達も曲がりなりにも食っていけるから請求はしないけど、君のお金を容赦なく使ってくれるのは君の子供だから大切にしておきなさいと思っている。
 だけど君を見ていて、私達が君を育てた頃とは違うと思った。そして私も学んだ。少しくらいなら自分にお金を使ってもいいんだと思って、私は人生最後のビッグバイクを買った。所有する喜びだけでなく乗れる喜びに間に合ってよかった。