行って帰るだけの旅はつまらない。

 若い頃には子連れハイキングで東京郊外の高尾山や御岳山に行ったが、私は行きと同じ駅に戻るのが嫌いで、京王線高尾山口駅から出発したら帰りはJR中央線の藤野駅から電車に乗りたいし、御岳山でもJR青梅線の御岳駅から出発したらJR五日市線武蔵五日市駅から帰るコースを選ぶ。
 『山の彼方の空遠く ・ ・ ・ 』ではないが、旅は峠越えが楽しい。車で小河内ダムから冬枯れの柳沢峠を下った時。甲府盆地ではスモモが花盛りで、桃源郷に降りた様な気分になった。深夜に和田峠で携帯電話が圏外になった。下り始めてアンテナが戻った時、人外魔境から生還した様な気がした。
 峠を越えた麓に温泉があればもっと素晴らしい。御岳山から日の出山を越えるコースには『つるつる温泉』という日帰り温泉がある。家族で歩いた後にはこれが楽しい。車だったけど、秩父から三国峠と信州峠の2つを越えて泊まった黒森鉱泉も印象に残っている。
 旅は心細さの後に安堵感の湧くコースがよい。そう、峠越えにはそれがある。