課長の憂鬱な真実。(Wife's side)
うちの人、今週は出張で帰りは金曜の予定。静岡からお得意様回りをするので、今朝はいつもより早く家を出た。私は少し寂しいけれど、娘の方は少し開放モードでウキウキしている様子が判る。リホも年頃だからお父さんは心配しているのに、その親心をこれっぽっちも判っていない。
絶対に娘の方が悪い。今の私にはそれが判る。だけど、私にもそんな時があり父親をヤキモキさせた。今の娘を見ると私も娘時代を思い出す。ごめんね、お父さん。そして娘を心配するあなた。
案の定、今日の娘は帰りが早く夕食は2人で食べた。
『リホ~。あんたパパがいないと早く帰るよね。』
「そんな事ないよ。ママが寂しいと思うから早く帰ったんだよ。」
『アラアラ。それはありがとう。小鼻が笑ってるよ。』
「そんな事ないよ。それよりママ。パパとどうして結婚したの。」
『なんで~。結婚でも考えてるの?』
「チ、違うわよ~。今まで聞いた事なかったから。」
ウフフ。小鼻が笑っている。好きな人がいるんだわ。顔は正直ね。
『花嫁修業をしている時に助けられた事があるの。それがきっかけ。』
「ン?それで。」
(ア~。困ったな話したくない事もあるのに。どうしよう)
今でこそ会社勤めしてるけど、初めて会った時は水商売の客引きみたいな事をしていて怖い感じというか、殺気立った様なピリピリ感のある人だった。なぜそんな人と知り合ったかっていうと、私がお料理学校に通っていた時に、友達が少し帰り道を変えてみようって繁華街を歩いて、酔っ払いにからまれて、客引きをやっていたうちの人に助けられた。野獣の群れにターザンがきた感じだったかな。少なくとも王子様ではなかった。
「私、お母さんの結婚写真見た事ないよ。」
『結婚式 ・ ・ ・ しなかったの。』 「エッ、何で??」
『お父さん、ううん!おじいちゃんそれから直ぐ死んじゃったから。』
「おじいちゃん結婚前に死んだんだ。お母さんの花嫁姿は見たと思ってた。」
『おばあちゃんは直ぐに結婚するのが父親孝行だって言ったの。』
「普通なら結婚は少し延期だよね。」
『おばあちゃんはおじいちゃんの願いを聞いていたんだって。』
「おじいちゃん、お母さんの花嫁姿見られなかったんだ~。」
『パパだって信頼しあえる人と結婚してほしいって。あなたの事心配してるのよ。』
「ア~、私の事は心配しないで。それで。」
『近くの神社で結婚したの。私達2人とおばあちゃんだけ。』
「パパの親戚は?」 『おじいちゃんの葬式直後だから呼ばなかった。』
父からは用心棒の様な男と付き合うのはやめめろ。何のために料理教室に通わせ花嫁修業させていると思っているんだ。アーだのコーだのと随分しかられた。それを彼に話したら『判った。夜の仕事はやめてサラリーマンになる。』と言ってくれて小さな商事会社に就職し、約1年で100万円貯めて父の前で結婚を申し込んでくれた。
その時初めて父も納得して許してくれた。1年で100万円貯めるのは大変な時代だったから、父も努力を認めたんだと思う。
『ところでリホ。仕事の方は楽しい?』
「ナニそれ。仕事が楽しいわけないでしょう。面白いと思う事はあるけど。」
『エ~。どんな時に。』
「企画書が1発で通った時などヤッターッて思うわ。」
『リホも企画書なんて書くの?』
「それは書くわよ。そんな時にはパパに感謝するわ。」
『エッ。パパに感謝する時なんてあるの?!』
「パパって、みんなの知らない物を何とか売ろうとするでしょ。」
『そうそう。ノニジュースを初めて飲んだ時。ノニじゃなくて何って思ったもんね。』
「でもアレ、最近は少し大きな店ならどこでも売ってるよ。」
『電気で筋肉をピクピクさせる機械。あれはビリビリ気持ち悪くてね~。』
「あれも、今は女の子だってダイエットに使っているし。」
『でもさ、パパが初めて使った時は肌が荒れて、軟膏塗ってたのよ。』
「私もあんなの絶対に売れないと思ってた。」
『本当そうだったわね。』
「パパのそのおかしな発想力が私の仕事にも役立つのよ。」
うちの人の仕事は、珍しい新商品をお店に勧めて販売の契約をいただく事。大手商社のやらない様な珍しい商品が多い。でも、それがいつの間にか世間に広まっていく。
「お母さん。お父さんから電話あった?」
『まだないけど。多分メールでしょ。』
「古いよね。仕事中は電話を切っているなんて。」
『時代の違いよ。昔なんかFAXで画を送ってきてたでしょう。』
「覚えてる。足の画を描いて、この辺に靴擦れができた。なんてね。」
『下手な画だったけど、実感がこもってたわね。ホホホ。』
「そうね。ハハハ。笑いすぎて涙が出た~。」
うちの人の癖だけど、昼間に連絡は取れない。携帯が無い時は当たり前だったけど、携帯を持つ様になってからも昼間は電源を切っている。理由を聞いたらお客様と商談している途中で携帯に出るのは失礼だろう。まして、相手が商談中の商売敵だったりしたら困るだろう。そう言われればそうよね。
出張中の連絡は、昔は公衆電話。時にはFAXで画を送ってきた。娘がまだ小さな頃だったけど。携帯になってからは電話の時もあるし、夜遅い時にはほとんどメール。宿に気をつかっているのだと思う。そんな細かな気遣いをする人だからお得意様にも気に入られているのかもしれない。
来週は東京近郊を回る予定だから毎晩家に帰れる。でも、そうなると娘の帰りが遅くなる。家族って難しい。娘も結婚する年頃になったという事なんだろう。1人娘だからお婿さんで私達と同居になるのかしら。他のお宅だって少子化で子供が少ないからお嫁に行ってしまうのだろうか。うちの人はどう考えているのだろうか。来週、リホのいない時にそれとなく聞いてみようかしら。怒り出さないといいけど。
ア~ァ。妻って大変。母親ってやる事が一杯。いつ楽になれるのかしら。
絶対に娘の方が悪い。今の私にはそれが判る。だけど、私にもそんな時があり父親をヤキモキさせた。今の娘を見ると私も娘時代を思い出す。ごめんね、お父さん。そして娘を心配するあなた。
案の定、今日の娘は帰りが早く夕食は2人で食べた。
『リホ~。あんたパパがいないと早く帰るよね。』
「そんな事ないよ。ママが寂しいと思うから早く帰ったんだよ。」
『アラアラ。それはありがとう。小鼻が笑ってるよ。』
「そんな事ないよ。それよりママ。パパとどうして結婚したの。」
『なんで~。結婚でも考えてるの?』
「チ、違うわよ~。今まで聞いた事なかったから。」
ウフフ。小鼻が笑っている。好きな人がいるんだわ。顔は正直ね。
『花嫁修業をしている時に助けられた事があるの。それがきっかけ。』
「ン?それで。」
(ア~。困ったな話したくない事もあるのに。どうしよう)
今でこそ会社勤めしてるけど、初めて会った時は水商売の客引きみたいな事をしていて怖い感じというか、殺気立った様なピリピリ感のある人だった。なぜそんな人と知り合ったかっていうと、私がお料理学校に通っていた時に、友達が少し帰り道を変えてみようって繁華街を歩いて、酔っ払いにからまれて、客引きをやっていたうちの人に助けられた。野獣の群れにターザンがきた感じだったかな。少なくとも王子様ではなかった。
「私、お母さんの結婚写真見た事ないよ。」
『結婚式 ・ ・ ・ しなかったの。』 「エッ、何で??」
『お父さん、ううん!おじいちゃんそれから直ぐ死んじゃったから。』
「おじいちゃん結婚前に死んだんだ。お母さんの花嫁姿は見たと思ってた。」
『おばあちゃんは直ぐに結婚するのが父親孝行だって言ったの。』
「普通なら結婚は少し延期だよね。」
『おばあちゃんはおじいちゃんの願いを聞いていたんだって。』
「おじいちゃん、お母さんの花嫁姿見られなかったんだ~。」
『パパだって信頼しあえる人と結婚してほしいって。あなたの事心配してるのよ。』
「ア~、私の事は心配しないで。それで。」
『近くの神社で結婚したの。私達2人とおばあちゃんだけ。』
「パパの親戚は?」 『おじいちゃんの葬式直後だから呼ばなかった。』
父からは用心棒の様な男と付き合うのはやめめろ。何のために料理教室に通わせ花嫁修業させていると思っているんだ。アーだのコーだのと随分しかられた。それを彼に話したら『判った。夜の仕事はやめてサラリーマンになる。』と言ってくれて小さな商事会社に就職し、約1年で100万円貯めて父の前で結婚を申し込んでくれた。
その時初めて父も納得して許してくれた。1年で100万円貯めるのは大変な時代だったから、父も努力を認めたんだと思う。
『ところでリホ。仕事の方は楽しい?』
「ナニそれ。仕事が楽しいわけないでしょう。面白いと思う事はあるけど。」
『エ~。どんな時に。』
「企画書が1発で通った時などヤッターッて思うわ。」
『リホも企画書なんて書くの?』
「それは書くわよ。そんな時にはパパに感謝するわ。」
『エッ。パパに感謝する時なんてあるの?!』
「パパって、みんなの知らない物を何とか売ろうとするでしょ。」
『そうそう。ノニジュースを初めて飲んだ時。ノニじゃなくて何って思ったもんね。』
「でもアレ、最近は少し大きな店ならどこでも売ってるよ。」
『電気で筋肉をピクピクさせる機械。あれはビリビリ気持ち悪くてね~。』
「あれも、今は女の子だってダイエットに使っているし。」
『でもさ、パパが初めて使った時は肌が荒れて、軟膏塗ってたのよ。』
「私もあんなの絶対に売れないと思ってた。」
『本当そうだったわね。』
「パパのそのおかしな発想力が私の仕事にも役立つのよ。」
うちの人の仕事は、珍しい新商品をお店に勧めて販売の契約をいただく事。大手商社のやらない様な珍しい商品が多い。でも、それがいつの間にか世間に広まっていく。
「お母さん。お父さんから電話あった?」
『まだないけど。多分メールでしょ。』
「古いよね。仕事中は電話を切っているなんて。」
『時代の違いよ。昔なんかFAXで画を送ってきてたでしょう。』
「覚えてる。足の画を描いて、この辺に靴擦れができた。なんてね。」
『下手な画だったけど、実感がこもってたわね。ホホホ。』
「そうね。ハハハ。笑いすぎて涙が出た~。」
うちの人の癖だけど、昼間に連絡は取れない。携帯が無い時は当たり前だったけど、携帯を持つ様になってからも昼間は電源を切っている。理由を聞いたらお客様と商談している途中で携帯に出るのは失礼だろう。まして、相手が商談中の商売敵だったりしたら困るだろう。そう言われればそうよね。
出張中の連絡は、昔は公衆電話。時にはFAXで画を送ってきた。娘がまだ小さな頃だったけど。携帯になってからは電話の時もあるし、夜遅い時にはほとんどメール。宿に気をつかっているのだと思う。そんな細かな気遣いをする人だからお得意様にも気に入られているのかもしれない。
来週は東京近郊を回る予定だから毎晩家に帰れる。でも、そうなると娘の帰りが遅くなる。家族って難しい。娘も結婚する年頃になったという事なんだろう。1人娘だからお婿さんで私達と同居になるのかしら。他のお宅だって少子化で子供が少ないからお嫁に行ってしまうのだろうか。うちの人はどう考えているのだろうか。来週、リホのいない時にそれとなく聞いてみようかしら。怒り出さないといいけど。
ア~ァ。妻って大変。母親ってやる事が一杯。いつ楽になれるのかしら。