死の影を背負っていた先輩。

 NHKで月に1回ほど『証言記録 兵士たちの戦争』という番組を放送している。その中に2010年4月2日に放送された「飢餓の島(味方同士の戦場)金沢歩兵第107連隊」というのがありました。(『証言記録 市民たちの戦争』もある)
 私がまだ駆け出し無線屋だった時の大先輩に、南方の孤島を守備していた人がいた。太平洋での日本の覇権が弱まると、そんな孤島にも米軍が攻撃してきて、猛烈な艦砲射撃で約1/3の兵士が死に、その後は日本からの補給船が途絶えたので飢餓のために約1/3が死んだそうだ。
 そして、NHK『証言記録 兵士たちの戦争』の内容と大先輩の話があまりにも似ているのに驚いた。番組では元から駐留していた海軍と、後から補充された陸軍の間で食料をめぐる戦いがあったり、死んだ人間の肉を食べたり、上官殺しがあったと地獄絵図が語られていた。多分、大先輩もこの様な極限状態をくぐり抜けて来たのだろうと思う。
 その大先輩は山が好きで、夏にも冬にも単独行で丹沢山系に登っていた。冬などは後ろから鹿がついてくる事もあり、振り向けば10mほど後ろにいる事もあったという。
 当時の私は、その山行を単に羨ましいと思っていたが、その先輩の歳を越えてみると死線を越えてきた先輩の山行は、多くの戦友を無くし自分も死線を越えてきた者のさすらいだったのか、あるいは禊の山行だったのではないかと思えて仕方がない。
(録画した証言記録シリーズは現在23編になりました)