テープレコーダーとデジタルレコーダー。

  昔々、私が高校生だった頃の話だが、テープレコーダーで録音した音を再生して、それを更に別のテープレコーダーで録音する。それを何回か繰り返すと、回転機器であるテープレコーダーのワウ・フラッターで耳の優秀な奴ならば笑ってしまう様な変化が起きたという。
 
  それなら、CD録音だったらどうなのだろう。素人には変化など判らないだろうか。まあ、この歳になってそんな実験をやる気力も失せたし、私の耳の劣化も著しくなった。
  我が家は、アナログテレビからデジタルテレビに買い換えるのがだいぶ遅かったが、すでにその頃にはアナログテレビの水平走査周波数である15、75Khzが聞こえなくなっていた。
  そんな耳ではCDの録音(デジタル変換)→再生(アナログ変換)→録音(デジタル変換)→再生(アナログ変換)を重ねれば波形の歪は生じると思うのだが、私の耳では聞き分けられないだろう。
 
  とはいっても、デジタル時代の黎明期には(一度切り捨てたものは絶対に復活できない)と、内心では切り捨てる事を前提としたデジタル化をいぶかしんだものである。
  CDのサンプリング周波数は44Khzだから、理論的には人間の耳の上限の20Khzの限界を超えた22Khzまで再生できるはずである。だからデジタル技術者なら『それでいいのだ』と言うにちがいない。
  だが、新入社員の時の私は22Khzが聞こえた。22Khzが本当に聞こえたかと問われると微妙だが、正直にいうと聞こえたというよりは耳への圧力として感じる事ができただけで、それはすでに音ではなかった。
 
  まあ、アナログ時代にも切り捨ての技術はあった。それが顕著だったのはカラーテレビである。小さな画像は輝度の方が重要で色は省略されたし、暗い画面でも色の信号は重要でなかった。
  それは人間の目の特性であり、色よりも明るさに敏感なのである。『江戸紫』と言われる紫は、イメージよりかなり薄いというか明るい色である。なぜなら、江戸時代の歌舞伎の様な薄暗い舞台では、普通の紫だったら黒に見えてしまうのである。
 
  デジタル技術が信号圧縮のために、どんな手法を使っているのか時代に乗り遅れたアナログ技術者の私には判らないが、かなり大胆に切り捨てているのではないだろうか。