音が心に与える影響。

 昭和40年代の前半頃、名古屋の東山動物園でゴリラに芸を仕込んだ飼育員がいて、当時は非常に珍しがられた。ところが、そのゴリラ達がいう事を聞かず、芸をしない事があったという。
 東山動物園も名古屋から少し郊外に造られていたのだが、日本経済の伸びに従い宅地開発がすすめられ、宅地造成の建設機械の発する重低音や振動にゴリラ達が怯えたのが原因だったと聞いた事がある。
 
 まあ、人間も重低音の響きや振動には不安を感じる。新婚当初に住んだアパートは線路の脇だったので、自分達は慣れてしまったが、たまに様子を見にくる親は、電車の振動で夜中に目覚め、寝不足で帰っていった。
 また、人間は甲高い音にも弱い。私に経験は無いが、長兄は空襲の体験をしている。爆弾は落下する時に甲高い音を出す様に作られていて、多数の爆弾が甲高い音を出して落下してくると、どこから音がするのか判らなくなるという。
 そして、その後に続く爆発音と爆風。生き物に備わった学習能力は甲高い音を聞いただけで恐怖の記憶がよみがえり、パニックになって正常な判断は失われてしまう。
 
 経験から学んで生きている人間に、非日常の事態は大きなストレスになる。たかが音であっても、原因の判らぬ音は人間を不安にし、原因が判ればそれが恐怖を誘発して正常な判断を阻害する事もある。
 寝た子を起こさぬ様な平穏な世界になってほしいが、ヒョットしたら平穏とは退屈で死にそうな世界かもしれない。
(そうか、すべての生命が死に絶えたのが平穏なのかもしれないのだ!!)