股火鉢。

 今の暖房は安い暖房器でも灯油ストーブだと思うが、私が子供の頃の暖房の主役は炬燵と火鉢だった。
 
 居間に置く大火鉢は直径1m以上で鍋も置ける大きなものだったが、小部屋にはそれに見合った小さな火鉢(手あぶり)があった。大方は炭が1~2個しか入らない直径30cm以下の本当に小さな火鉢で、手あぶりとも呼んだ様に書き物の途中でこごえた手を温めるなどに使った。
 
 ところが、これが便利な火鉢だった。普段は乾燥する冬場の加湿に小さな鉄瓶をかけておくのだが、その鉄瓶で燗をつけたり、鉄瓶を下ろしてスルメや煮干しをあぶってチビチビやったりと、大人の楽しみには好都合なアイテムだった。
 
 また、あまりに冷えたら着物の裾を開いて火鉢をまたぐと、足から股間まで温める事が出来た。男ならまだしも、時には婆ちゃんが着物の裾を開いて手あぶりをまたぐ。裾の割れ目から赤い腰巻が見えるそんな姿を誰かに見られると、笑って誤魔化し『今日は本当に冷えるね~』などとはぐらかしていた。
 
 今はズボンだから股火鉢はできないが、冬場に大げさな用意をせずにチクと飲みたい時には、手あぶりがあったら便利だと思う。
 そうは思えど。炭は高く、藁灰も手に入りにいし、24時間火種の炭を絶やさずにおくのも大変である。昔ならば、24時間火種を絶やさぬ大火鉢があったから、適当な大きさの炭を取り分けたので手あぶりも便利だったが、大火鉢がなくなった現代生活では手あぶりも消え去るしかなかった。
 
 まあ、24時間火種を絶やさないというのは火事の心配からも、専業主婦+爺婆同居でもなければできない生活である。