女房はキャンペーン型人間。

 女房はお客様が来るとなるとがぜん活気付く。もてなしの料理だけでなく、部屋の掃除からカーテンの洗濯や、客用布団のカバーを取替える。ここまでは判る。だが、泊まりもしない客なのに布団まで干す。勿論、玄関周りの草も抜き、私には洗車を言いつける。
 そして何より、急に記憶がよみがえる。普段は何という事もないのだが、来るとなると『あれが好きだった』とか『これが好きだった』と食べ物の嗜好から趣味の事まで思いめぐらして用意する。
 そういう性格だからイベントやお祭りが大好きで、春にはテレビで桜前線の北上を見てはどこへ行こうかと考える。秋には太鼓の音を聞くと落ち着かなくなり、神輿を見るのも好きである。まあ、典型的なキャンペーン型人間だと思う。
 
 私は無線屋なので送受信機が壊れたら直すという待機型の仕事をしてきたし、チマチマとした仕事が職人的性格にも合っていた。
 キャンペーン型の女房から見ると、私の仕事も日常生活も女房の性格には合わないのである。どちらかと言えばキャンペーン型の性格は社長向けであり、私の様な待機型は従業員タイプである。
 私達が結婚した頃は専業主婦が主流の時代であり、巷にも女性経営者は少なく、女性社長は限られた職種に多かった。また、私があちこち職場を替わり引越しも度々だったので、女房の人生から女社長という機会を奪ってしまった気がする。
 
 『髪結いの亭主』という言葉もあるが、女房に起業させて私はそのおこぼれで遊んでいた方が楽な人生だったかもしれない。しかし、もしそうなっていたら、私は女房に愛想を尽かされて離婚されていたという筋書きも充分に考えられる。
 私は今も、女房に実力を発揮させてやれなかったと悔やんでいる。きっと私より良い仕事をしていたと思う。
 
 連休中の女房は待機型の私を使って、ニポカジで買ってきたカーテンの付け替えや部屋の模様替えを言いつける。部屋は冬の装いから夏の装いに変わった。
 夕食には缶ビールが2本という安いご褒美である。♪うち~の女房にゃ髭がある♪という歌謡曲があったが、少なくとも家を仕切る女房は社長の様だ。