兄弟の葛藤。

 父が逝った時、長兄は成人していたが私はまだ未成年だった。ゆえに、私の手元には父の遺品が一点も無い。ある時、兄の物置の段ボール箱に、書道が趣味だった父の硯の入っているのを見た。
 少し珍しい硯で、形は円形で墨をする面が平らである。大書を書く硯ではなく、数滴の水をたらして墨をすり、短冊をしたためるための硯なのだ。先日、思い切って『3万円で売ってくれ』と頼み、長兄も了解したのだが、後日「硯が見つからないからあの話は無しにしてくれ」と言ってきた。
 
 長兄の性格からして、私は値を吊り上げたいのだろうと感じた。あるいは、古物商に見せたら3万円以上の値がついて売ってしまったのかもしれない。
 母が逝った時には、葬儀を長兄と私の共同喪主で行ったのだが、分担金を出させられた上に、共同喪主のはずが香典まで請求された。そして、葬儀経費の詳細など秘密にされた。聞きにくい事なのでどのような収支であったか判らないままになってしまった。
 
 しかし、兄弟姉妹の葛藤確執とはおかしなものだ。同じ親に産んでもらいながらも、生まれた順番により序列が決まってしまう。
 とはいえ、人間は歳をとり社会的立場も変わる。それでありながら、兄弟姉妹が集まると、社会に出るまでのわずかな子供時代の序列に従ってしまうことが多い。
 長幼の序という礼節は大切ではあるが、兄弟姉妹が社会人として歳をとったのならば、お互いの立場を尊重し、子供の時の長幼の序列で物事を決定するのではなく、大人としての兄弟姉妹の関係に進むべきだと思う。
 
(高齢になると物事を決めるのは年長者・金を払うのは年少者となりかねない)