強い洗剤は劇物。

 今は人から住まいまで様々な洗剤がありますが、私が子供の頃には化粧用固形石鹸と洗濯用固形石鹸。それに洗濯用の粉石鹸くらいだったと思います。化粧用と洗濯用の違いは香りの有無だったと思います。台所用洗剤は研磨剤(磨き砂)の入ったクレンザーで、食品を洗う洗剤は農薬を大量使用する様になって、その農薬を洗い流すために生まれた商品でした。
 洗濯屋さんの様なプロは苛性ソーダを使いましたが、これは劇物に指定されていて荒物屋さんでは扱っておらず、薬局に頼まなければなりませんでした。私も少年時代に植物の葉脈標本を作るために売ってもらった事がありますが、薬局で何に使うのか聞かれて葉脈標本の作り方の本を見せてやっと分けてもらいました。
 少し大きめの空き缶に湯を沸かして苛性ソーダを入れて、それで葉っぱを煮ると葉っぱが溶け始めます。煮えた葉っぱを流水で洗いながら歯ブラシでパタパタと軽く叩きます。すると、葉脈にくっついていた部分も葉脈から剥がれます。後は乾燥させれば葉脈標本の出来上がりです。苛性ソーダの溶解力はそれほどに強いのです。
 とはいえ、油を溶かす洗剤も作用的には苛性ソーダと同じです。細胞というものは、電解質の水が脂肪酸の幕で包まれているようなものです。洗剤により細胞の膜が溶かされてしまうと細胞は壊れてしまいます。だから、台所仕事をすると手が荒れるのです。
 洗剤とはその様な商品なので、市販されている洗剤の洗浄力は当然ながら苛性ソーダより弱く作られています。だから、洗浄力が強くなったといって容器を小型化するのは、実質的な値上げなのです。手荒れ防止の成分が入っているといってもその効果など微々たるものです。本当に強力な洗浄効果があったら劇物に指定されます。
 
 私がチョンガーだった頃、無線機の部品の接点を洗うのに四塩化炭素を使いました。電気製品は水洗いできませんので、一般的には無水アルコールを使いましたが、四塩化炭素はそれよりも洗浄力が強くて、同じ様に蒸発するし絶縁性を悪化させませんので重宝しました。でもそれは、冷蔵庫やクーラーなどの冷媒に使われ、大気中に放出されるとオゾン層を破壊するというフロン化合物の一種でした。
 しかも、それが時と場合により、条件が揃えばホスゲンなどの有毒ガスを発生するとは知るよしもありませんでした。まあ、そんな綱渡り的平穏で能天気な時代でした。(なにか今の中国みたいでした)