『老人学』のすすめ。(番外編4)

 老親介護で一番大切な意識は『体力・脳力は低下してもプライドは低下しない』という事実です。特に男親には『私は父親』という絶対的プライドが残っています。
 我が家の親父の介護のトラブルも、父親のプライドによる非妥協的姿勢と、介護する家族の実務的困難さに起因する事が多々ありました。
 
 ある時、親父が「友人に貸した金を返してもらいに行く」と家を出ようとしました。貸したお金はすでに返されているし、貸した友人もすでに亡くなり、親父はその方の葬儀にも出ていました。
 いくら説得しても聞かないので、とにかく外出させてはまずいと、長兄が玄関の硝子戸を外側から押さえて開かない様にして外出をあきらめさせました。庭から外に出る事もできるのですが、親父にはそれが考えつきませんでした。
 
 そんな事が度々ありましたが、妄想の時期を過ぎると、欲求は食欲に移り食べてから1~2時間すると食べたがり、はじめのうちは『○○時に食べましたよ』と言えば納得したのが、そのうち食べ物を出さないと大声を出す様になりました。
 初めのうちは、冷めたご飯でも茶碗に盛り漬物などを上に乗ただけでも何とかなりましたが、そのうち気に入らなければ茶碗を投げるようになりました。ずっと時が経ってから同じ様に介護経験のある方から聞いた話ですが、お母様を介護したその方は小さなおにぎりを作っておいたそうです。お母様は食べたことを忘れるだけですから、お腹は空いていないので小さなおにぎり1個でも満足したそうです。
 
 体がもっと衰えると食欲は収まりましたが、筋肉も衰え歩くのがままならなくなるだけでなく、箸が上手く使えなくなりました。スプーンを持たせるのですが、親父のプライドでスプーンを使う自分を受け入れなくて箸を使って食卓から着物まで汚しました。
 その後は寝たり起きたりになり、目を覚ました時に食事を食べさせる様になり、介護でスプーンから食べさせてもらうのは拒否しませんでしたが、食は徐々に細くなり痩せてゆき、1年半ほどで老衰で亡くなりました。
 
 
 
 親父の介護ではもっともっとありましたが、今回は通り一遍な事しか書けませんでした。実は、私自身にボケの症状が出はじめたのです。
 発見のきっかけは、確定申告でした。会場で清書して申告し、受理してもらいました。そして会場を出たわけなのですが、机の上の下書きや電卓を置き忘れたのです。すぐに戻って事なきをえましたが、これは二つの事をやる能力が衰えた事にほかなりません。
 私はこれを自分のボケの第一歩ととらえ、これからは慣れた仕事でも習慣的に行うのでなく、意識の根底にダブルタスク実施中と常に考えながら作業するようにします。
(恥をかかないためにです、そしてプライドを傷つけないためにです)
 老親介護で一番大切な意識は『体力・脳力は低下してもプライドは低下しない』という事実です。特に男親には『私は父親』という絶対的プライドが残っています。
 我が家の親父の介護のトラブルも、父親のプライドによる非妥協的姿勢と、介護する家族の実務的困難さに起因する事が多々ありました。
 
 ある時、親父が「友人に貸した金を返してもらいに行く」と家を出ようとしました。貸したお金はすでに返されているし、貸した友人もすでに亡くなり、親父はその方の葬儀にも出ていました。
 いくら説得しても聞かないので、とにかく外出させてはまずいと、長兄が玄関の硝子戸を外側から押さえて開かない様にして外出をあきらめさせました。庭から外に出る事もできるのですが、親父にはそれが考えつきませんでした。
 
 そんな事が度々ありましたが、妄想の時期を過ぎると、欲求は食欲に移り食べてから1~2時間すると食べたがり、はじめのうちは『○○時に食べましたよ』と言えば納得したのが、そのうち食べ物を出さないと大声を出す様になりました。
 初めのうちは、冷めたご飯でも茶碗に盛り漬物などを上に乗ただけでも何とかなりましたが、そのうち気に入らなければ茶碗を投げるようになりました。ずっと時が経ってから同じ様に介護経験のある方から聞いた話ですが、お母様を介護したその方は小さなおにぎりを作っておいたそうです。お母様は食べたことを忘れるだけですから、お腹は空いていないので小さなおにぎり1個でも満足したそうです。
 
 体がもっと衰えると食欲は収まりましたが、筋肉も衰え歩くのがままならなくなるだけでなく、箸が上手く使えなくなりました。スプーンを持たせるのですが、親父のプライドでスプーンを使う自分を受け入れなくて箸を使って食卓から着物まで汚しました。
 その後は寝たり起きたりになり、目を覚ました時に食事を食べさせる様になり、介護でスプーンから食べさせてもらうのは拒否しませんでしたが、食は徐々に細くなり痩せてゆき、1年半ほどで老衰で亡くなりました。
 
 
 
 親父の介護ではもっともっとありましたが、今回は通り一遍な事しか書けませんでした。実は、私自身にボケの症状が出はじめたのです。
 発見のきっかけは、確定申告でした。会場で清書して申告し、受理してもらいました。そして会場を出たわけなのですが、机の上の下書きや電卓を置き忘れたのです。すぐに戻って事なきをえましたが、これは二つの事をやる能力が衰えた事にほかなりません。
 私はこれを自分のボケの第一歩ととらえ、これからは慣れた仕事でも習慣的に行うのでなく、意識の根底にダブルタスク実施中と常に考えながら作業するようにします。
(恥をかかないためにです、そしてプライドを傷つけないためにです)